鳴戸親方に送る弔い星 稀勢の里、大関獲りへ白星発進

[ 2011年11月14日 06:00 ]

初日白星に神妙な表情で懸賞金を受け取る稀勢の里

大相撲九州場所初日

(11月13日 福岡国際センター)
 7日に師匠の鳴戸親方(元横綱・隆の里)を亡くした大関獲りの関脇・稀勢の里(25=鳴戸部屋)は平幕の旭天鵬(37=大島部屋)を冷静に寄り倒して白星発進した。入門から自らを育ててくれた存在である“師匠”を失ったなかでの勝利に、花道では思わず感極まった。天国で見守る先代に吉報を届けるため、昇進ロードをまい進する。
【取組結果】

 「いつもと変わりない」と強がっても、こみあげるものは抑えきれなかった。大関獲り、そして亡き師匠、先代鳴戸親方への手向けの勝利を誓った初日。稀勢の里はがむしゃらに攻めて勝ち名乗りを受けた。花道は、いつもどおり険しい表情で引き揚げたが、その目はみるみるうちに潤んでいった。

 秋場所までは監察委員として支度部屋に詰めていた先代に勝利を報告することもあった。しかし、それもできなくなった。髪を結っている間も「涙」について尋ねられると「まあ…」とつぶやき、再び目に涙。「今は場所中。集中して相撲を取る。それが一番」と必死に言葉を絞り出した。

 過去、旭天鵬とは9勝9敗と全くの五分。前回対戦した7月の名古屋場所でも完敗した。しかし、旭天鵬が「仕切るたびに、(いつも以上に)あちこち叩いていた」と話すように、気合十分の稀勢の里の太腿の内側は赤く腫れていた。得意の左四つの体勢になって攻め続けたものの、土俵際で捨て身のすくい投げを打たれた。いつもならバッタリと手をついていてもおかしくなかったが、冷静に対処し体を密着させて寄り倒し。場所前に先代が「心の力がついてきた」と評価した、精神面での成長を大事な一番で発揮し、部屋を継承した新鳴戸親方(元幕内・隆の鶴)も「一生懸命相撲を取っている。前に出る相撲を取ろうとしていた」と評価した。

 10日の通夜、11日の葬儀・告別式に出席するために、場所直前に稽古を2日休んで福岡と千葉を往復。体調面の不安は感じていた。前夜には、3年前から懇意にしている山口接骨院(名古屋市)の山口泰輝院長(41)を福岡に呼び寄せ、マッサージを受けた。レスリングの伊調千春のトレーナーとして北京五輪にも出向いた山口院長からは「状態はいい」と太鼓判を押され、勝負の場所に向け不安は払しょくされた。

 師匠との思い出について聞かれても「思い出したらきりがない」と多くを語らない。父・萩原貞彦さん(65)からは葬儀の際に「体調に気をつけろよ」と声をかけられたが、無言でうなずいたという。言葉では言い表せない悲しみを抱えた大関候補の弔い場所は、始まったばかりだ。

続きを表示

2011年11月14日のニュース