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金子達仁氏 海外組と差し替えたいと感じさせてくれた選手は皆無だった

[ 2022年7月20日 06:00 ]

E-1選手権(男子)   日本6―0香港 ( 2022年7月19日    カシマ )

<E1男子 日本・香港>前半、FKでゴールを決める相馬(撮影・西海健太郎)
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 試合前、中国国歌「義勇軍行進曲」を口ずさむ香港選手は、たった一人だった。元々は抗日映画の主題歌だったというこの曲には、「いざ立ち上がれ、隷属を望まぬ人々よ」という一節がある。香港の自主性を徹底して弾圧した側が、「立ち上がれ」と歌わせる。いや、実に素晴らしい。

 この素晴らしさの前には、日本代表の6―0という快勝もいささか霞(かす)んでしまう。いや、大まじめな話、選手はそれぞれ懸命のアピールを展開していたし、悪い試合でなかったことは間違いない。

 ただ、自分たちの国歌を聞いて気持ちを昂(たかぶ)らせるどころか、虚(うつ)ろな視線を彷徨(さまよ)わせるしかない香港とは、試合に臨むエネルギーが違いすぎていた。

 正直にいえば、この試合は「試合」というよりは、先日、秩父宮でパリSGが大人1人4500円をとって見せたモノに近かったように思う。つまりは、有料の公開練習。血をたぎらせるものでも、青筋を立てるほど感情的になるものでもなかった。

 実際、それなりの得点を量産したとはいえ、チームとしての背骨というか、共通認識のようなものはほとんど感じられなかった。彼らに与えられた時間を考えればそれも当然。逆に言えば、それでいながら6ゴールを奪ったのだから、大したものなのかもしれない。

 ここのところ、すっかり存在意義を失いつつあったこの大会だが、今回に限り、W杯へ向けた国内組のラストチャンスという位置づけになった。W杯に出場できない中国や香港にとっては、以前と変わらぬB級の国際大会であり、日本からすれば、評価の対象とすべきは最終戦の韓国戦ただ1試合のみ、と言っていい。

 おそらく、そのことは選手たちも十分承知しているはず。従って、こちらも選手やチームについての評価を下すのは、最終戦が終わってからということにしたい。

 ただ、こんな“練習試合”でも、知恵を感じさせてくれた選手はいた。相馬である。

 現在の日本代表に足りないものは何か。挙げて言ったらキリがないが、攻撃面に関してまず筆頭にあげられるのは、ポストを務められるFWであり、FKのキッカーだろう。

 おそらく、相馬もそう考えていた。考えていたがゆえに、開始早々、敵陣深くで得たFKのキッカーに、彼は真っ先に名乗り出た。今季Jリーグで1点しか取れていなかった男は、他の面々を差し置いて「自分が蹴る」と主張し、見事ゴールネットに突き刺した。

 これで、森保監督の、そしてファンやメディアの脳裏には、「相馬はいいFKを持っている」というイメージが刷り込まれた。現状、彼がカタールにいける可能性は決して高くないが、しかし、あと一人、誰を入れるかという状況になった際、今回のFKが生きる可能性はある。FKのキッカーを求めているチーム事情を察した判断力が、買われる可能性がある。

 自分なんかがカタールにいけるはずがない、と思っている選手はいい。だが、もし本気でカタールを狙っているのであれば、アジア最終予選を戦ったメンバーにはないもの、チームとして不足しているものを自分ならば提供できるというアピールをしてほしい。

 公開練習の内容に目くじらを立てるつもりはないが、この日に関して言うと、海外組と差し替えたいと感じさせてくれた選手は、皆無だったからである。 (スポーツライター)

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2022年7月20日のニュース