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大分 夢まであと一歩で散る 昇格も降格も経験した“片野坂物語”ラストにふさわしい終戦

[ 2021年12月20日 05:30 ]

第101回天皇杯決勝   大分1-2浦和 ( 2021年12月19日    国立 )

<天皇杯決勝 浦和・大分>準優勝の表彰を受けた大分・片野坂監督(撮影・西海健太郎)
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 101回大会の決勝が国立競技場で行われ、来季J2の大分は1―2で浦和に敗れて九州Jリーグ勢で初の優勝を逃した。先制されながら後半45分にペレイラ(24)が頭で決めて追い付く粘りを見せたが、アディショナルタイムに浦和・槙野智章(34)に決勝点を奪われた。今季限りで退任する片野坂知宏監督(50)は大分でのラストゲームとなった。浦和は前身時代を含めて史上最多タイとなる8度目の優勝で、来季ACLの出場権を獲得した。

 満員の国立競技場で迎えた“片野坂トリニータ”の集大成。勝負の神様は片野坂監督が大分で最後の指揮を執った一戦を極上の興奮と感動、そして究極の悔しさを味わう劇的なドラマに仕上げた。

 1点ビハインドで試合最終盤の後半45分、下田からのクロスをCBペレイラが頭でネットに突き刺し追い付いた。「ゴールを決めるしかないと思って前線に入った」。一直線にゴール裏へ走ると、青く染まったゴール裏は興奮で揺れた。

 指揮官も全身で喜びを表現した。「信じられない気持ちだった。選手があきらめず、あの時間に同点に追い付けた。ミラクルを起こすことができるのか」。準決勝・川崎F戦も1点を追う延長後半の終了間際に下田からのクロスを前線に上がったCBトレヴィザンが頭で仕留め同点にし、PK戦を制した。その奇跡の再現を予感させる一撃だった。

 前線に強力なストライカーを擁する浦和に対して、大分は準決勝と同じ守備的な4バックを採用したが、前半6分に先制点を奪われた。後半からは2ボランチに修正。左右のサイドを高い位置に上げ、攻撃的に仕掛けたことで同点弾につながった。

 しかし、延長戦はなかった。その3分後、浦和・槙野に勝ち越しゴールが生まれる“劇的返し”の幕切れ。ACL出場とJ2降格チーム初の優勝を目指した大分の夢は破れた。

 指揮官は「時間がたつにつれ悔しい気持ちを感じている」と言葉を絞り出した。16年、J3転落でどん底のチームの監督に就任。「今までで一番うれしかった」と振り返るJ3優勝でJ2復帰を果たすと、次は2年でJ1に引き上げた。

 GKからつないでボールを保持しながらサイドからの攻撃を仕掛ける特徴的なスタイルは「カタノサッカー」とも呼ばれた。だが今年は主力選手を失い苦戦。降格となり指揮官は退任を決意した。この日のドラマチックな展開は、昇格も降格も経験した片野坂監督の6年間の物語そのものだった。クラブ初の天皇杯決勝を戦った愛する大分に「1年でJ1に復帰してほしい」とエールを送り、「私自身も次のステップにいく中でこの経験を生かしたい」と語った。それぞれの新たな戦いがここから始まる。

 【記者の目】6シーズン指揮を執った片野坂監督の口から「ファン、サポーター、県民のため」という言葉を何度聞いただろう。試合後の会見でも勝敗に関わらず最初に必ずファンサポーターへの感謝を述べる。「プレーを見て応援してくれる方が励みになるゲーム、喜んでもらえること、それが大事だと思うし使命」、「喜んでもらえる成果を出すことはプロのチームとしてやっていく以上凄く大事」、「地方がスポーツの力で喜んでもらって活性化できればみんなが幸せになると思う」。プロとしてプレーする意義を常に念頭に置いていた。その姿に応援側も呼応。降格が決まっていたホーム最終戦後、退任する指揮官へ温かい拍手が送られた。「ブーイングされても当然なのに」と監督は感激。コロナ下で苦しい今季、募ったクラウドファンディングでは目標額5千万円を大きく上回る9千万円近くが集まった。クラブ名「トリニータ」はイタリア語で県民、行政、企業が一致団結する“三位一体”の意味を持つ。その絆をより強固にしたのは、チームをJ3からJ1に引き上げ、最後には天皇杯で決勝に導いた片野坂監督の真摯(しんし)な情熱にほかならない。 (大分担当・村田 有子)

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