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神戸・イニエスタ 魔術の秘密に迫る! 「3つの機能」搭載、過去最強スパイクの靴底に独自性

[ 2020年6月22日 05:30 ]

イニエスタが使用する「ULTREZZA AI」(画像提供アシックス)
Photo By スポニチ

 J1は7月4日に再開する。今季も主役となる神戸の元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタ(36)は順調に調整を重ねており、日々、コンディションを上げている。今回、本人とスパイクを共同開発したアシックス社を取材。同社のコアパフォーマンススポーツ・フットウエア統括部フィールド開発チームの新堀正博氏、小泉匡史氏に話を聞き、特殊な靴底の“裏側”に迫った。

 技術やパスセンスだけじゃない。イニエスタは身体能力も凄かった。18年10月にアドバイザリースタッフ契約を交わしたアシックス社と共同開発し、昨季途中から使用するスパイクが「ULTREZZA AI(ウルトレッツァ エーアイ)」。開発に携わった新堀氏と小泉氏にオンラインで話を聞くと、小泉氏は「ほかの選手と違う、凄く特徴的な説明になるんですけど…」と切り出した。

 「普通、人間って左方向にグッと行こうとすると、右足を着いて、右足に力を入れて左方向に行く。でも、イニエスタ選手の場合、右足を着かずとも、左足でも左へとスムーズにターンできる特徴がある。どっちの足を着いても、どっちの方向にも方向転換、体重移動ができるんです」

 例えば、真っすぐ走っていて急に左前方へと進む方向を変える時、普通なら外側にあたる右足を踏み込んで左に向かう。ただ、イニエスタは右足ではなく左足を軸にしても方向転換できるため、素早いターンを切ることが可能だという。右足でも同じで、新堀氏は「着地した足で、そのまま方向転換するような。着地した足で方向を変えるイメージですね」と説明する。

 圧倒的な技術に加え、自由自在なターン動作やステップ動作があるからこそ「ボールを取られなかったり、ヒラリとかわせる」と小泉氏。今まで語られることのなかったイニエスタ特有の強みを最大限に生かすことが、スパイクを共同開発するアシックス社の使命となった。

 動作解析を含め、同社のスポーツ工学研究所のもとでもあらゆる研究を重ね、靴底には3つの機能が搭載された。

 (1)5ミリヒール
 かかと部分に5ミリのクッション材を入れることで、常に前傾姿勢が生み出される。新堀氏は「前に体重が乗ると一歩目が踏み出しやすい。また、ヒールにクッション性を持たせることでケガの防止にも効果的」と利点を語る。それまで同社では0ミリ、そしてスピードに自信のある選手が好む10ミリのヒールがあったが、10ミリではパサーとしてはやや不安定さがあったため、その中間の5ミリがイニエスタのために同社で初めて誕生した。

 (2)「ねじれ」対応
 本来、スパイクはねじれすぎない方が良いとされ、外側へのねじれを抑制する傾向にあるが「イニエスタ選手の場合、外側にねじれるような動きもある」と新堀氏。特徴的なターン動作などを阻害しないため、中足部に「トルクトラス」と名付けられた樹脂製補強具を初めて施し「曲げを抑制しつつ、ねじれやすくした」という。内側や外側への体重移動が容易となる機能で、よりスムーズなターンが可能となった。

 (3)「X」の切れ込み
 前足部に入っているのがX状の切れ込み。この溝があることによって靴底は曲がりやすくなり、最後の踏み出す時、360度どの方向にも足をスムーズに動かせるようにサポートされている。この3つの機能の「合わせ技」(小泉氏)こそがイニエスタ仕様で、アシックス社によって生み出された。

 企画から完成まで1年弱。最初に本人から伝えられた「足の一部と感じられるようにしてほしい」という要望を実現するため素材なども徹底的にこだわり抜き、ポイントの高さも工夫がされている。過去最強のスパイクを履き、神戸の背番号8がリーグ再開後もピッチで魔法のようなプレーを見せる。

 《「イニエスタ好き」によって完成》イニエスタのためのスパイクは、多くの「イニエスタ好き」によって生み出された。「自分も凄くサッカーが好きで、バルサの時から見ていて、神戸の試合も全て欠かさず見ていた」と小泉氏。動きを常にチェックしていたからこそ「左足での左へのターン」という特徴に気づき、スポーツ工学研究所に相談を持ちかけた。

 その研究所にもサッカー好きが多かった。「機能分析の方も含めて、個人個人で動きを調べたり、情報共有をしたり。“この動きの時にはこういう形状やスタッドがあった方がいいよね”とか」(新堀氏)。同社で初めて単体のサッカー選手に作製したスパイク。現在、新たに進化形のモデルを作る計画もあり、継続してイニエスタとコミュニケーションを取り続けている。

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