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必殺セットプレーは“一夜漬け”だった 米国W杯制覇の陰に北欧の智将

[ 2015年7月17日 10:30 ]

前半、米国のロイドに2得点目を許すGK海堀と阪口、熊谷、岩清水ら日本DF陣

 なでしこジャパンの2連覇を阻んだ、女子W杯決勝序盤の米国のセットプレーからの2得点。CKとFKからいずれもグラウンダーの速いボールをゴール前へ送り、ペナルティーエリア外からMFロイドが走り込んで決めたもので、米国の高さを警戒していた日本の隙を突いた。試合開始早々に繰り出した勝負手は、スウェーデン人の男性コーチ、トニ・グスタフソン氏(41)が米国チームに仕込んだものだった。

 グスタフソン氏は米国が3連覇を飾った12年ロンドン五輪でもコーチを務めていた人物。同郷の女性指揮官、スンダーゲ監督(当時、現スウェーデン監督)の要請で同年4月に“入閣”し、決勝で日本に11年W杯のリベンジを果たすのに一役買った。その後は母国の女子チーム、ティレセを13~14年欧州女子チャンピオンズリーグ(CL)準優勝に導き、14年5月就任のエリス監督に請われて米国のスタッフに再び加わっている。指導者初期はスウェーデンやノルウェーで男子チームを率いて2部降格など失敗も経験したが、ティレセではDFクリーガーやクリンゲンバーグら今回の米国代表メンバーのうち5人を指導。女子チームの指導者として実績を積んでの“再入閣”だった。

 FWモーガンの証言によると、必殺のセットプレーは「決勝前日に練習を始めたもの」という。エリア内の選手が動いて日本のマーカーを引っ張りだし、ロイドに走り込むスペースを与えた連係は“一夜漬け”とは思えない見事なもので、1点目の直前にDF岩清水がロイドがいる方向を見てまぶしそうにしていたのも、時間帯によって日光を背にした場合のポジションまで計算していたのではと思わせた。エリス監督は「セットプレーは彼に全て任せていた」と明かし、自身4度目の挑戦で悲願のW杯優勝をつかんだFWワンバックは「トニはチームの頭脳でセットプレーの天才。世界チャンピオンになれたのは監督と彼のおかげ」と感謝した。

 「チーム全員の努力の結果。オーケストラの指揮者だって、一流の演奏者たちがいなけりゃ指揮棒を振れないだろ?」。グスタフソン氏は謙遜したが、高い分析力と、戦術をチームへ落とし込む手腕が評価されて、今後は男女を問わず新たなオファーが来るはずだ。もともと高い個人能力に今大会は組織力が加わり、さらに“北欧の智将”が緻密さを植えつけた米国は別格の強さだった。(中出 健太郎)

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2015年7月17日のニュース