【生産者インタビュー】2歳馬が絶好調の追分ファーム 偶然か?それとも必然か? その内側に迫る!

[ 2021年6月29日 17:00 ]

今年1月、追分ファームリリーバレーで調教中のセリフォス
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 驚異的な開幕ダッシュだ。5日に開幕した2歳戦で、追分ファームの生産馬が次々に勝ち上がっている。先週までに9頭がデビューして、ビーオンザマーチ(牝=林、父モーリス)、セリフォス(牡=中内田、父ダイワメジャー)、メリトクラシー(牝=武幸、父シルバーステート)、キミワクイーン(牝=奥村武、父ロードカナロア)の4頭が新馬勝ち。好調の要因はどこにあるのか。追分ファームリリーバレー事務局の井上朋哉さん(35)は「順調に育成できた馬が多かったんです」と安どの笑みを浮かべた。

 「現3歳世代に比べて、現2歳世代は3月に本州に移動できた馬が多かったんです。数字を挙げると、昨年は96頭を育成して、3月中に移動できたのは門別所属の1頭だけ。一方、今年は97頭中、14頭が移動できました。その分、早くデビューできる馬が多く、さらにいろいろな条件がかみ合ったことで4勝できたんだと思います」

 振り返れば、現3歳世代の初勝利は8月15日の新馬(イルーシヴパンサー)、2勝目は9月26日の未勝利(トーセンインパルス)だった。さらに1つ上、現4歳世代の初勝利は8月24日の未勝利(ゴールデンレシオ)、2勝目は9月22日の未勝利(シュルルヴァン)。それだけに今年の早さは際立つ。

 「中央競馬は(未勝利の)最後が決まっていますから、なるべく早くデビューした方が出走機会も増えるし、勝ち上がるチャンスも生まれます。1つ上の世代と比べた時、育成方法をガラッと変えたわけではないのですが、1頭1頭の状態をしっかりと見極め、その馬に合った調教をする。また、繁殖→イヤリング→調教と各部門から次のステージへ良い状態で馬を送り出せていることも大きく、そういった日々の積み重ねが、結果につながったんだと思います」

 もう一点、新しい血が活性化を促している点も見逃せない。追分ファームといえば、ダートで一時代を築いたゴールドアリュールの母でもあるニキーヤの一族が看板血統だが、にわかに海外で購買してきた繁殖牝馬が存在感を発揮している。勝ち上がった4頭でいえば、メリトクラシーとセリフォスの2頭の母は輸入繁殖牝馬。まだ産駒がデビューしていない繁殖牝馬の中には、米国でG12勝のアレイヴィングビューティ、同じく米国でG1を制しているパーソナルダイアリーなどの大物もいる。

 「今年で追分ファームリリーバレーは開場10年目を迎えました。施設にお金がかかった分、当初は繁殖牝馬を買うことを控えていた時期もありましたが、ここ数年はアメリカやヨーロッパのセリで良さそうな馬を買うことができています。その中からニキーヤの次を担う、新しい根幹牝馬が出てきてほしいですね」

 追分ファームリリーバレーは直線1020メートルの坂路(ウッドチップ)と1周1000メートルの周回コース(ダート)を有する、北海道でも屈指の育成施設。肉体面を鍛えることはもちろんだが、四方を緑に囲まれた環境は精神面にもいい影響を与えている。そこにスタッフの経験、血の更新、さらには意識改革が加わって、歯車がかみ合ってきたのだ。2歳の好成績は決して偶然ではない。今まさに勃興の時。今後の2歳戦線はもちろん、さらに下の世代も含め、追分ファームの生産馬からは目が離せない。

 ○…新馬勝ちを狙える追分ファーム生産馬はまだまだいる。ストームゾーン(牡=杉山晴、父ドレフォン)は7月25日の新潟芝1400メートルでデビュー予定。井上さんは「馬っぷりが良く、牧場時代からスピード感あふれる動きをしていました」と明かす。ブレスク(牡=国枝、父ルーラーシップ)の母は6戦4勝の好成績を残したパララサルー。「このお母さんの子どもは体質が弱い馬が多く、トレセンまでたどり着いたのはブレスクが初めてなんです。距離があって良さそうなタイプ。きょうだいの分まで頑張ってほしいですね」と期待した。こちらはゲート試験に合格済みだが、デビュー戦は未定となっている。

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