林家木久扇の笑点「54年愛」 卒業発表後初“単独高座”で未来への提言「緊迫感が平らになっちゃった」

[ 2023年9月12日 05:05 ]

単独インタビューに応じ、扇を手に笑顔の林家木久扇
Photo By スポニチ

 54年間出演し続ける日本テレビ「笑点」を来年3月で卒業すると明かした落語家の林家木久扇(85)が発表後初めてインタビューに応じ、現在の心境や番組への提言を本紙に語った。間の抜けた“与太郎キャラ”で長年人気を博してきた最古参メンバー。日曜の夕方を沸かせてきた男が愛する「笑点」の変化と危機とは――。(前田 拓磨)

 「残念というよりもね、ホッとしてるんです。54年間も面白いこと言うの大変なんですよ」。卒業を決めた木久扇の口から出たのは安堵(あんど)の言葉だった。重圧から解放されたのか「全国行って落語会やっても、最初から笑わせなくちゃいけない。毎日面白いわけないですよ」とひょうひょうと答えた。

 決断の理由は元気に番組を去る前例を作るため。盟友・桂歌丸さん(享年81)ら古参メンバーは病魔と闘いながら番組を去った。「明るく笑点を卒業していったという足跡を残そうと思った。噺家(はなしか)の末路というのは最後悲劇になっちゃう。それを切りたかったんです。明るく笑わせる商売なんでね」と語った。

 54年間にわたるレギュラー出演は歴代最長。(写真上から)立川談志さん、前田武彦さん、三波伸介さん、五代目三遊亭円楽さん、そして歌丸さんら司会者5人を見送った。

 「立川談志という人は天才で思いがけないようなことを助言してくれました。歌丸師匠は切り返しがうまかった。濃密にお付き合いしました」と思い出は尽きない。

 長く座布団に座り続けたからこそ感じる危機感もある。それは番組の「バラエティー化」だ。自身が重視するのは司会と回答者の緊張感。「最近は回答者が立ち上がったり、司会者を攻撃したり。本当は司会者って権威があって、座布団くれるのか、くれないのかっていう緊迫感があったんですよ。それが平らになっちゃった」。今こそ原点回帰を訴える。「笑点は他の番組と違うから、ここまで持った。今のままだと着物を着ているだけで、ひな壇に並んでいる若い人たちと同じになってしまう」と後輩たちへ本来の大喜利に立ち返ることを求めた。

 自身の後継者の人選も気にかかる。「僕の席に座る人は大変だと思います。世間はずっと54年間僕の映像を見てるわけで、僕の残像がある。かわいそうで残酷だと思いますね」。重圧回避のためにと、女性への門戸開放にも肯定的だ。「自分と比べられる批判がそらせると思います。あとは英断が笑点スタッフにできるかどうか」と新しい風を吹き込む必要性を説いた。

 高座以外にも元漫画家でイラストレーターなどの一面を持つ木久扇。笑点を退いた後は高座以外にもアニメを作り、東南アジアに輸出する意欲も見せる。「長屋を宇宙に飛ばして落語スター・ウォーズなんてアニメを作り、それで落語界に貢献しようかな」と番組卒業後のビジネスについて青写真を描いた。

 「あとはニコニコぽっくり」と理想の最期を語る。来年3月の卒業までは残りわずか。希代の与太郎は笑いと生きざまを届け続ける。


 ≪歌丸さんは「ずっとおじいさん」≫ 木久扇が笑点で印象深い思い出として挙げたのが1歳違いの歌丸さんだった。取材中「あの人は不思議な人で、30代から亡くなる時までずっとおじいさんだった」といじったが、公私にわたり親交は深かった。今回の卒業に歌丸さんがどう反応しそうかを聞くと「あの人は口が悪いんでね。木久ちゃん早く来いとかね。(六代目三遊亭)円楽の方が先に来ちゃってとか言ってると思う」と思いをはせた。

 ◇林家 木久扇(はやしや・きくおう)本名・豊田洋。1937年(昭12)10月19日生まれ、東京都出身の85歳。60年8月に三代目桂三木助に入門。翌年八代目林家正蔵門下に移り、林家木久蔵を名乗る。69年に笑点のレギュラーメンバーになる。73年に真打ち昇進。07年に息子の林家木久蔵とダブル襲名により木久扇を襲名した。

続きを表示

この記事のフォト

「美脚」特集記事

「STARTO ENTERTAINMENT」特集記事

2023年9月12日のニュース