笑わせ、沸かせる 清塚信也の“枝雀イズム” バラエティーに引っ張りだこの39歳ピアニストの話術の原点

[ 2022年5月1日 05:30 ]

クラシック音楽と落語は表現方法に通じるところがあると話す清塚信也(撮影・会津 智海)

 【夢中論】年間100本以上の演奏活動を行い、バラエティー番組にも引っ張りだこのピアニスト清塚信也(39)は、落語でトーク力を磨いている。出合いは約20年前。高座に通い、CDを聞き、関連書籍も熟読。それらで得た、思わず笑ってしまう“フリオチ”の効いた話術で、クラシックの魅力を一人でも多くの人に伝えようとしている。(小田切 葉月)

 揺れる新幹線の中、常にイヤホンを装着している。楽譜を読みながら、読書をしながら、そして時には何もせず、じっと耳を傾ける。地方公演などで5時間以上の移動も多いが、どんな時も落語が流れている。

 「落語を聞きながら楽譜を読むと、はかどり具合は約7割。途中笑ったり、巻き戻して聞いたりして残り3割は落語に引っ張られてる。好きなのは桂枝雀師匠。笑いに懸けた生きざま、表現者として尊敬します」

 5歳から母の影響でクラシックピアノの英才教育が始まった。10代に入るとコンクールに出場しながら、コンサート活動も並行。その中で淡々としたMCでは面白くない、と思うようになった。

 「お笑いやバラエティーが好きで、人を笑わせることに憧れがあった。ピアノの上達と同時に、クラシックの魅力を伝える方法をずっと考えました」

 高校生の時からコンサートのトークに笑いを取り入れるため試行錯誤した。しかし、格式の高さを重んじることも多いクラシック業界。笑いを取ることは下品と猛反対された。「戦いの日々」の中、話がうまくなりたい一心で18歳から落語を聞き始める。気が付けば約20年がたっていた。

 クラシックに“笑いはあり”と確信したのは24歳の頃。元V6の三宅健(42)を介して立川志の輔(68)と出会い「クラシックのことを人に伝えたいなら5分に1回は笑いを入れた方が良い。じゃないと人は聞かないから」と助言を受けたことが大きい。

 一番参考にしているのは、80年代に一世を風靡(ふうび)し“上方落語の爆笑王”と呼ばれた故桂枝雀さん。オーバーアクションの型破りな芸風でありながら緻密に計算された笑いの理論「緊張の緩和」を唱えてきた人物だ。

 ダウンタウンの松本人志(58)も寝る前に繰り返し聞き続けているという希代の落語家で、その影響で清塚も聞き始めた。「真面目に笑いを科学する姿に心打たれ、ずっと聞いています」。数ある噺(はなし)の中で、最も聞いているのが「まんじゅうこわい」。一人ずつ何が怖いかを言い合う単純な噺を、話の抑揚だけで笑わせる。

 「構成も含めて全てが完璧!どこに熱を込めて、どのタイミングで引くとか、トークのさじ加減の勉強になっています」

 「クラシックと落語は似ている」。特に共通しているのは、観客が演目の中身を最初から最後まで知っている状態で、高座を聞きに来ることだ。ピアニストも噺家も、音色や話し方の表現などを工夫して聴衆に届ける。

 「ドレミのうただって、弾き方によっては泣かせることもできる。落語もただの“まんじゅう”を言い方によって笑わせられる。そんなところにも感銘を受けました」

 ステージMCでは土地ネタを用いた“マクラ”のほか“フリオチ”を効かせた曲紹介で観客を音の世界に引き込む。例えばベートーベンの「エリーゼのために」。

 「ベートーベンが愛する人のために作った曲で、本人の死後に発表。つまり勝手にラブレターを公開されているのと同じ。皆さんにとっては死後にLINEを見られるようなもので、男としては地獄のような話」。時代背景や作曲理由に笑いを交えることで、音楽への理解をより深めている。

 巧みな話術が評価され、数々のバラエティー番組に出演。SNSでは「ピアノのうまい芸人さん」といじられることもあるが「そう言ってもらえるのはうれしい。マインドが芸人寄りなのかもしれません」と笑った。

 「笑いが起き、拍手が起きるコンサートができる粋なピアニストになりたい」。“枝雀イズム”を体現するような緩急自在のステージ。「まんじゅうこわい」ではないが、全てが「うますぎて、こわい」と満足できる日を夢見ている。

 《子供たちに「一流の音楽」を届けたい》清塚は、今月4~7日に東京・赤坂のサントリーホールで実施される子供対象のクラシック音楽の祭典「こども音楽フェスティバル」の公式アンバサダーを務める。0歳から小中高生、妊婦とおなかの中の赤ちゃんまで、さまざまな年齢の子供たちに向けたバラエティーに富んだ全18公演を開催予定。清塚は「子供だましは一切なし。総勢300人を超える一流のアーティストが、一流の音楽を届けます」と語った。チケットも500~3000円で販売されるほか、清塚の提案でソニー音楽財団の公式YouTubeチャンネルでコンサートのライブ配信も行われる。「良いものを広く届けるための工夫。子供たちには音を浴びてもらいたいし、将来ここから音楽家が生まれたらうれしい」と笑顔を見せた。

 ◇清塚 信也(きよづか・しんや)1982年(昭57)11月13日生まれ、東京都出身の39歳。中村紘子氏、加藤伸佳氏、セルゲイ・ドレンスキー氏に師事し、桐朋女子高音楽科(共学)を首席で卒業。2000年第1回ショパン国際ピアノコンクールinASIA第1位など、国内外のコンクールで数々の賞を受賞。13年には映画「さよならドビュッシー」で俳優デビュー。血液型B。

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