「カムカムエヴリバディ」ヒロイン・るい 別れた母への本当の思い

[ 2022年1月10日 08:19 ]

連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で、錠一郎(オダギリジョー)から風鈴をもらうるい(深津絵里)(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】10日放送のNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で、ヒロインのるい(深津絵里)が、トランペッターの錠一郎(オダギリジョー)に「そうか。会いたいんやな、お母さんに」と言われる場面があった。

 「お母さん」とは、るいが故郷の岡山で離れ離れになった母・安子(上白石萌音)のこと。つらく悲しい思い出として、忘れようとしたこと、これまで他人には打ち明けずに過ごしてきたことだ。

 この場面が面白いのは、るいがそれまで母を忌避するようなことを語っていたにもかかわらず、それを聞いた錠一郎が正反対の見解を述べたからだ。

 演出した泉並敬眞氏は「藤本有紀さん(原作・脚本)と打ち合わせをした時、『るいと錠一郎は、お互いに気づいていないが、つながっている』という話になった。その象徴があの場面だと思う。例えば、誰かと恋愛関係にある場合、自分が本当に言いたいことや無意識下にある本音を、相手に言い当てられることがある。錠一郎のあの言葉は、るいにとって錠一郎が特別な存在になっていく、一つのキーになる」と話す。

 るいが母・安子と決別することになってしまった要因は、安子が米軍将校のロバート(村雨辰剛)から愛の告白を受ける姿を目撃してしまったことだ。すぐに安子は自分にとって最も大切なのはるいであることをロバートに伝え、米国には同行できないことを告げたのだが、その時には既にるいはその場から離れてしまっていた。

 安子はるいを誰よりも愛していた。るいも幼心にその愛を感じていた。ところが、わずかな時間、それぞれが違う道に迷い込んでしまった。2人の別離は誤解から生じたものだ。るいが安子に「アイ・ヘイト・ユー(大嫌い)」と言った瞬間、るいは安子を憎んでいたのかもしれない。そうだとしても、それからずっと憎み続けたわけではない。本当は会いたかった。自分を誰よりも愛してくれた母に。でも、消えてしまった。幼かった自分にできることは、忘れようとすることだけだった。錠一郎の「会いたいんやな、お母さんに」という言葉は、るいの過去と現在を一言で結びつけるものだ。

 泉並氏は「錠一郎の魅力は、人がちゅうちょしてしまうようなところを、ポーンと飛び越えてしまうこと。るいの前でいきなり『オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート』を吹いてしまうのもそうだ。るいが長く抱えているかたくなさのようなものが、錠一郎に不意打ちされることによって崩れていくというのが、この物語の大きな構成としてある」と語る。

 2人はこのまま恋人関係になるのか。波乱があるのか。そして、るいは、いずれ、母への本当の思いを自覚して行動することになるのか…。物語が大きく動きだしている。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

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2022年1月10日のニュース