“一豊”藤井竜王 過去8勝2敗圧倒も警戒 楽しみは島根の割子そばの5枚盛り

[ 2022年1月1日 05:30 ]

第71期ALSOK杯王将戦

渡辺王将に挑む藤井竜王(撮影・会津 智海、河野 光希)
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 3冠VS4冠。心躍る頂上決戦が新春早々に火ぶたを切る。将棋8タイトル戦の一つ、第71期ALSOK杯王将戦(スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社主催)7番勝負は9日、静岡県掛川市での第1局で開幕する。3連覇中の渡辺明王将(37)=名人、棋王含め3冠=に初めて挑むのは藤井聡太竜王(19)=王位、叡王、棋聖含め4冠=。タイトル29期を誇る百戦錬磨の戴冠者に対し、王将戦史上最年少の挑戦者が襲いかかる。将棋界“天下分け目の合戦”を目前に、甲冑(かっちゅう)を着て戦国武将に扮した2強が胸中を語った。(我満 晴朗)

 「けっこう重いと覚悟して(撮影に)来たのですが、聞いていたほどではなかった。楽しかったです」

 土佐藩初代藩主で、掛川城の城主としても有名な山内一豊の甲冑を身につけた藤井は、そう語った。やはり掛川にゆかりのある武将。模造刀については「想像以上に重かった」と振り返った。王将戦特有のコスプレ体験。挑戦者に決定後「勝たなければそれもないので、1回経験してみるのも一つの目標」と語っていただけに“予行演習”は終えた形だ。

 すっと構えた刀剣の切っ先は、どこに向けられているのだろう。

 「年が明けて、すぐに王将戦がある。それに向けて準備を進めています。いい内容の将棋にしたいですね」

 藤井にとって過去2年は激動に次ぐ激動の日々だった。棋聖、王位を瞬く間に奪取した20年。その2タイトルをあっさり防衛しただけでなく、さらに叡王と竜王を肩書に加え、史上最年少4冠になった21年。「大きな舞台での対局を経験できて、非常に充実した一年でした」と振り返る。襲いかかる難敵をことごとく撃破し、ふと振り返ればまさに死屍(しし)累々。向かうところ敵なしの19歳が新たに狙うのは、5冠目となる王将位に他ならない。

 9日からの7番勝負で対峙(たいじ)する渡辺王将とは、過去8勝2敗と圧倒している。タイトル戦に限っても6勝1敗。数字の上では優位に立つ挑戦者だが「対局数がそれほど多くないので、そんなに意識はしません」と慎重に言葉を選ぶ。「渡辺王将は戦略性の部分で一局の展開をうまくコントロールされている。中盤の複雑な局面であっても急所を的確に見抜かれている」。達人にしか理解しえない深層での攻防を重ねてきたがゆえの警戒感は、いまだに抱き続けているという。

 加えて新たな留意点もある。過去2回の棋聖戦は持ち時間各4時間の1日制。「これまで自分が経験した2日制の戦い方とはまた違った展開になると思う。王将は時間配分をかなり意識していると感じる。(棋聖戦ではなく)王将が2日制で指された将棋を参考にしたいと思ってます」とも明かした。

 冠数で1つ上回っているとはいえ、相手は酸いも甘いもかみ分ける歴戦の雄。勝っている部分は?の問いには「う~ん、若さですか」とユーモアたっぷりに切り返した。7番勝負の開催地では「栃木、佐賀、島根、新潟が行ったことがないので楽しみ。島根では割子そばの5枚盛りを食べてみたいです」と無邪気な笑顔も見せた。第3局の栃木・大田原はA5ランクの「与一和牛」が有名。各地の名産が藤井を待っている。

 時に目尻を下げながらも、甲冑を身につけての視線は鋭さが際立っている。若き求道者が新年早々に目指す王将の座。戦いはもう始まったも同然だ。

 《「苦手だった」キノコ克服?》藤井は21年12月2日の順位戦で近藤誠也七段(25)を下したのが年内最終戦。以降は年末の東西対抗など非公式戦や行事をこなした。正月用の一斉取材にも応じ、「苦手だったキノコは少し食べられるようになりました」と告白。色紙には「道」と揮毫(きごう)し「強くなることを常に目標にしている。その道はぶれないように」と意図を説明した。

 ◇藤井 聡太(ふじい・そうた)2002年(平14)7月19日生まれ、愛知県瀬戸市出身の19歳。16年に14歳2カ月の史上最年少で四段昇段、史上5人目の中学生棋士となる。17年6月にデビュー以来負けなしで史上初の29連勝を記録した。20年7月の棋聖戦で史上最年少・17歳11カ月での初戴冠、以降獲得タイトルは通算6期。趣味は鉄道で、最近はチェスにはまっている。杉本昌隆八段門下。

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