「おかえりモネ」菅波先生が愛されたワケ 脚本・安達奈緒子氏「利他の精神」坂口健太郎の表現力に感謝

[ 2021年10月28日 13:00 ]

連続テレビ小説「おかえりモネ」第117話。東京にとんぼ返りする菅波(坂口健太郎)。百音(清原果耶)に「春にまた、こっちに来る」(C)NHK
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 女優の清原果耶(19)がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」(月~土曜前8・00、土曜は1週間振り返り)は明日29日、最終回(第120話)を迎える。今作屈指の“愛されキャラクター”となったのが、俳優の坂口健太郎(30)演じる医師・菅波。その言動についてつぶやく際のハッシュタグ「#俺たちの菅波」が自然発生し、SNS上で大反響を呼び続けた。脚本の安達奈緒子氏に菅波の魅力と人気の要因について聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 朝ドラ通算104作目。清原とタッグを組んだNHK「透明なゆりかご」などやテレビ東京「きのう何食べた?」などで知られる安達氏が手掛けるオリジナル作品。朝ドラ脚本初挑戦となった。タイトルにある「モネ」は主人公・永浦百音(ももね)の愛称。1995年に宮城県気仙沼市に生まれ、森の町・登米(とめ)で青春を送るヒロイン・百音が気象予報士の資格を取得し、上京。積み重ねた経験や身につけた技術を生かし、故郷の役に立ちたいと奮闘する姿を描く。

 坂口が好演してきたのは、第1話(5月17日)から登場した若手医師・菅波光太朗。東京の東成大学附属病院に籍を置き、登米の森林組合併設の「よねま診療所」に1週おきに登米に通っていたことから、百音と知り合った。当初は地域医療や訪問診療に積極的になれず、常にドライで無愛想。百音ともソリが合わなかったが、ひょんなことから百音に気象予報士試験の勉強を教えることに。百音が試験に合格した際は一人、ひそかに喜び。“トムさん”ことジャズ喫茶のマスター・田中(塚本晋也)の病気と向き合った経験や百音との出会いから、訪問診療を続けることを選んだ。

 不器用ながらも百音を温かく見守る姿が大人気。その“らしい言動”は「マジ菅波」などと呼ばれ、第2部「東京編」スタート時(第46話、7月19日)には、既に「#俺たちの菅波」が生まれていた。

 気象予報士として百音が上京した後も、良き相談相手。2014年春の出会いから、約5年半。ゆっくりと距離を縮め、19年9月、ついに「僕は、あなたが抱えてきた痛みを想像することで、自分が見えてる世界が2倍になった。僕はあなたといると、自分がいい方に変わっていけると思える。たぶん、これからも。この、感情がすべてだ!一緒にいたい。この先の未来、1分1秒でも長く。結婚したいと思ってる」とプロポーズ(第91話、9月20日)。しかし、百音は地域密着型の気象予報士として地元に戻ることを決断。菅波も外科医としてキャリアを積むため、東京へ。「とにかく2人の仕事が落ち着いてからじゃないと」(菅波)(第95話、9月24日)と結婚を保留した。

 「投げられた物を取るのが苦手」などの弱点もあり、視聴者も深く感情移入。データ分析会社「CINC(シンク)」(東京都港区)の調査によると、「#俺たちの菅波」の出現数は7月度=5830、8月=6万3790、9月=19万170と飛躍的に増えた。

 第3部「気仙沼編」に入っても、永浦家への結婚あいさつを「案件」(第106話、10月11日)と言うなど“菅波節”は健在。一見「正しいけど、冷たい」、その奥に優しさを秘める助言も、菅波にしかない魅力となった。

 プロポーズ直後、実家のカキ棚が突風被害に遭ったことを知り、焦る百音に「落ち着いて。どうして自分で行かないの?心配なら行って、自分で見て確かめて。あなたにもできることをすればいい。朝岡さん(西島秀俊)と高村さん(高岡早紀)に事情を話すのに30分かかったとして、一関までの新幹線の8時台の最終には余裕で間に合う。そこからタクシーは相当な出費だけど、今日中には島には着きますよ。また言うの?『何もできなかった』って。もう、そんなに無力じゃないでしょ。『あの時(島に)いなかった』って思いに押しつぶされてきたのは誰ですか?」――。百音は永浦家に着くと「橋を、渡ってきた」と涙をぬぐった(第92話、9月21日)。

 雨不足に悩む農家の女性に解決策を示すことができず、百音が「自然を前にして、やはり無力です」と苦悩を打ち明けると「自分で選んだんでしょう」「それとも東京に戻りますか?」とメッセージ。百音は「わたしはここにいます」と決意を固め、涙がこぼれた。菅波が再び百音を勇気づけた(第108話、10月13日)。

 最後は未知(蒔田彩珠)と会う前の亮(永瀬廉)の背中まで押した。「残念ながら僕らは、お互いの問題ではなく、全くの不可抗力で突然大事な人を失ってしまうという可能性をゼロにはできません。未来に対して、僕らは無力です。でもだから、せめて今、目の前にいるその人を最大限大事にする他に、恐怖に立ち向かう術はない」――(第116話、10月25日)。

 書面インタビューに応じた安達氏は「菅波光太朗という人は常に理屈が先行し余計な一言が多く、とにかく面倒くさい性格なので、ともすれば周囲から疎まれてしまうような人物です。でも彼は百音と向き合うことで、人を思う気持ちが溢れてくる。言葉や振る舞いに優しさが現れる。それは彼が、根本的に『利他』の精神を持っている人だからだと思います。ここまで他者のことを思える人は現実にはなかなかいない。人間としての理想を体現しているのかもしれません」と菅波の魅力に言及。

 「視聴者の皆さまに愛していただけるようになったのは、菅波先生のその誠実さゆえだと思いますし、そこにさらに可愛らしさが加わったのは、ひとえに演じてくださった坂口さんの、ご自身から滲み出る魅力と優れた表現力によるものと思っています。とても感謝しています」と謝意を表した。

 明日29日は最終回(第120話)。幼なじみたちが見守る中、震災の日から閉じたままだった百音はサックスケースを開ける。そして2020年2月。百音、未知、新次(浅野忠信)たちに見送られ、亮は海へ。耕治(内野聖陽)と龍己(藤竜也)も海へ、それぞれの道を歩み始める。

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2021年10月28日のニュース