モニカ・ベルッチ 映画「アレックス」再編集版で輝く「至宝」

[ 2021年10月25日 08:00 ]

映画「アレックス STRAIGHT CUT」で、モニカ・ベルッチが演じるアレックスが公園の芝生で読書する場面(C)2020/STUDIOCANAL-Les Cinemas de la Zone-120Films.All rights reserved.
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 【牧 元一の孤人焦点】「イタリアの至宝」と言われる女優のモニカ・ベルッチ(57)が主演した映画「アレックス」(2002年)をギャスパー・ノエ監督(57)が自ら再編集した「アレックス STRAIGHT CUT」が29日から東京・新宿武蔵野館などで順次公開される。

 ベルッチはジュゼッペ・トルナトーレ監督(65)の映画「マレーナ」(2000年)などで知られ、007シリーズ第24作「007 スペクター」(15年)では50代でボンドガールを演じて脚光を浴びた。

 「アレックス」は、恋人と幸せな日々を送っていたアレックス(ベルッチ)がある夜、暴行され、恋人が復讐に向かう物語。02年のカンヌ国際映画祭での公式上映の際、強烈な描写の連続に、途中で退出する人が続出したものの、その後、フランス、イタリア、ベルギー、スイスで公開されると、多くの観客を呼んだ。

 アレックスが暴行を受ける場面は「至宝」を破壊するかのような過酷さだが、ベルッチは過去に発売されたDVDの特典映像の中で、出演理由について、このように語っていた。

 「ギャスパー・ノエ監督が決め手だった。監督の『カルネ』(1991年)『カノン』(98年)を見ていた。とてもはっきりした視点を持つ監督で、そういう監督が作る世界の一部になりたいと思った」

 ノエ監督はアルゼンチン出身で、フランスに移住。馬肉を売る中年男と無口な娘との近親愛を描いた「カルネ」で注目を浴び、カンヌ国際映画祭批評家週間賞を受賞した。

 「アレックス」はエンディングテロップから始まり、時系列を逆から描くという挑戦的な構成の作品。アレックスの恋人が復讐に向かった後の場面から始まり、アレックスが暴行を受ける場面へと移りゆき、2人が幸せそうに過ごす場面に続く。

 この作品を時間軸に沿った物語に再構築したのが「アレックス STRAIGHT CUT」。公開に先立って試写で鑑賞すると、オリジナル版の衝撃度を維持しつつ、物語を理解しやすくした印象を受けた。

 特筆すべきは、やはり、ベルッチの輝きだ。恋人役を演じているのが、当時、夫だったヴァンサン・カッセル(54)だけに、2人の仲むつまじい場面に多幸感がある。オリジナルでは後半、新作では前半に映し出されるが、全裸の2人がベッドで目覚め、戯れる場面は官能的であるとともに、とても楽しげである。

 ベルッチの逸話を思い出す。映画「ニュー・シネマ・パラダイス」(89年)などで知られるトルナトーレ監督が、少年が年上の女性に恋する小説の映画化を検討。なかなか主演女優を見いだせずにいたが、ファッションブランドのCMを演出した時、ベルッチと出会って撮影を決断した。それで完成したのが、彼女の代表作「マレーナ」だ。

 約20年前に「マレーナ」に続いて「アレックス」を見た時、ベルッチの作品選びを不思議に思った。なぜ、彼女はこの映画で自分の魅力を生かせると考えたのか…。その答えが「STRAIGHT CUT」で明瞭になった。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

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