乙武洋匡氏 コロナのことは嫌いでも、オリンピックのことは嫌いにならないでください

[ 2021年7月31日 05:30 ]

オリンピック・スピリット展を訪れた乙武洋匡氏
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 【乙武洋匡 東京五輪 七転八起(7)】仕事で東京・日本橋を訪れると、「オリンピック・スピリット展」が開催されていた。歴代のポスターや聖火トーチ、各大会で授与された金、銀、銅のメダル、過去の開会式で使用された衣装など貴重なアイテムの数々が展示されているという。

 時間があったので、立ち寄ってみることにした。入り口すぐのところにバッハ会長の写真が大写しに掲示されていて、いささか複雑な気持ちにはなったが、そこから続く展示にはかなり胸が熱くなった。1896年のアテネ大会から続くポスターにはオリンピックが積み重ねてきた歴史が感じられたし、各大会のトーチのデザインにはそれぞれの国の文化や伝統が感じられた。

 なかでも最も胸が熱くなったのは、これまで新たな歴史の扉を開いてきた選手たちのストーリーを紹介するコーナーだった。スポーツは男性のものとされていた時代に女性として初めて大会に参加した選手や、人種差別が横行していた時代に外野の声に負けずメダルを獲得した選手、競技に専念するために表彰式後にゲイであることを公表したメダリストもいた。文字通り、全ての選手が従来の常識や固定観念を打ち破って、「新しい扉」を開くことに成功したスターたちだ。

 彼らのストーリーを改めて目の当たりにして、私は悔しい気持ちでいっぱいになった。オリンピックには、やっぱり価値がある。人々の価値観を揺さぶり、社会を変革するほどの力がある。だからこそ、みんなでこの大会を心から楽しみたかった。誰もが祝福する大会にしたかった。そうして、また新しい扉が開かれる場面をこの目で目撃したかった。しかし、それができなかった。

 ここ数日、東京の感染者数は激増している。「こんな時にオリンピックなどしている場合か」という批判の声にも、当然ながら説得力はある。それでも、私は声を大にして言いたい。

 「コロナのことは嫌いでも、オリンピックのことは嫌いにならないでください」

  ◇乙武 洋匡(おとたけ・ひろただ)1976年(昭51)4月6日生まれ、東京都出身の45歳。「先天性四肢切断」の障がいで幼少時から電動車椅子で生活。早大在学中の98年に「五体不満足」を発表。卒業後はスポーツライターとして活躍した。

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