原節子さん生誕100年 映画「お嬢さん乾杯」に残された「天上の美女」

[ 2020年6月17日 12:40 ]

1960年当時の原節子さん
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 【牧 元一の孤人焦点】6月17日は昭和の名女優・原節子さんの生誕100年。この機会に原さんの出演作を見直した。

 原さんと言えば、すぐに小津安二郎監督の「晩春」(1949年)や「東京物語」(53年)などが思い浮かぶが、小津作品は数え切れないほど見てきたので外した。あらためて見たのは、黒澤明監督の「わが青春に悔いなし」(46年)、今井正監督の「青い山脈」(49年)、木下恵介監督の「お嬢さん乾杯」(49年)の3本。作品の優劣は別として、原さんが最も魅力的に見えたのは「お嬢さん乾杯」だった。

 「お嬢さん乾杯」は金に困る元華族の令嬢・泰子(原さん)と金持ちの自動車修理工場経営者・圭三(佐野周二さん)の恋物語。圭三は泰子を初めて見た時の感想を「美人?そんなもんじゃない。おれは初めて見たよ。まるで天上の美女だ。雷に打たれたようだったよ。息が止まりそうだった」と話す。

 大げさな表現だ。現代の映画で誰かがこんなセリフを吐けば笑ってしまう人もいるだろう。そもそも「天上の美女」と称しておかしくない女優がいるかどうか。ところが、この映画ではそれが陳腐に聞こえず、妥当とさえ思えてしまう。それほど原さんが美しく映っている。

 特に際立っているのが、デートでバレエを見るシーンと元恋人のことを打ち明けるシーン。それぞれ、左斜め下、右横のアングルから撮影されているが、いずれも原さん自身が光を発して輝いているように見えるほどだ。

 ラストシーンには愛らしい姿が映っている。バーのマダム(村瀬幸子さん)に圭三への思いを問われ「私、あの方が好きです」「愛していますわ」と答えるが、「じれったいお嬢さんだね。ほれたって言ってくださいよ」と突っ込まれ、最後にとうとう「ほれております」と口にする。撮影時に原さんは「ほれております」と言うのを恥ずかしがって何度もNGを出したという。作品には、そのはにかんだ表情が残されている。原さんは純真な人だったのだと思う。そして、それこそが美貌の源なのかもしれない。

 一つ、思った。もしも、原さんが黒澤監督の「羅生門」(1950年)に出演していたらどうだっただろう。原さんは実は黒澤監督からヒロイン役での出演を打診されていたという。結果的に京マチ子さんが演じて魅力十分だったが、あの「魔性の女」を、ミスマッチとも言える原さんが演じていたら…。黒澤監督は、原さんの隠れた魅力を引き出していたかもしれない。

 「羅生門」はヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞している。それは日本映画として初めて海外映画祭でつかんだグランプリだった。もしも、原さんがあの映画に出演していたら、のちのイメージは大きく変わっただろう。「原さんと言えば小津監督」ではなく「原さんと言えば小津監督と黒澤監督」だったのではないか。生誕100年に、そんな妄想にふけった。

 ◆牧 元一(まき・もとかず)1963年、東京生まれ。編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在は主にテレビやラジオを担当。

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