「キャプテン翼」通算100巻 常に“世界”を描き37年

[ 2017年6月26日 05:30 ]

「キャプテン翼」シリーズ通算100巻を喜ぶ作者の高橋陽一さん
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 人気サッカー漫画「キャプテン翼」シリーズの単行本が、今月発売された「ライジングサン編」6巻をもって通算100巻となった。開始37年、サブタイトルの違う計10作品合わせての大台到達に、作者の高橋陽一氏(56)は「タイトルは変わってきましたが、区切りの数字です。長くやって来たんですね」と感慨深げに話した。

 1981年の開始当時のサッカー人気を「W杯があることすら、知られていなかった」と振り返る。当時は“スポーツといえば野球”の時代。実は高橋氏自身も野球少年の1人だった。高校では軟式野球部で一塁手として活躍。サッカーは「体育の授業で楽しむ程度」だったという。

 サッカーに引かれたきっかけは高校3年生の時に見た1978年のW杯。母国開催で優勝を飾ったアルゼンチンを見て「これは絶対、面白いと思った」。卒業の翌年に漫画家デビューし、3年目には「キャプテン翼」を描き始めた。

 スポーツ漫画も、野球が主流の時代。サッカー漫画は「描き方の見本になるものがなく、かなり初歩的なことから説明して描いた。オフサイドどころか、1チーム11人でやることなど、今なら誰でも知っていることが、当時はそうではなかった」と、野球では考えられない苦労もあった。

 だが「人気が出る要素はある」との確信があった。野球漫画にない可能性も感じていた。「サッカーはワールドワイドなスポーツ。どんな国にも楽しんでいる人がいる」。日本代表はアジアで勝てず、W杯の本大会に出場したこともない“冬の時代”だったが、翼は常に“世界”を意識して描いた。

 今に続くサッカー人気の起爆剤となったといわれる。「翼」のヒットで全国の小学生を中心にサッカーブームが起きた。

 物語は88年に、37巻で一旦終了。小中学生の大会で全国制覇し、ジュニアユース大会で世界制覇するまでを描き「描きたいことは描き尽くした思い」だったという。

 その後の10年は、日本にサッカーバブルが到来。93年にはJリーグが発足し、98年にW杯本大会に初出場を果たした。96年には、2002年W杯の日韓共催も決まった。

 「翼」で描かれた“夢物語”に現実が近づいていくような現象は、高橋氏の心を再び燃え上がらせた。93年に短編を発表し5年ぶりの復活を遂げると「ワールドユース編」や「Road to 2002」「GOLDEN―23」など新編を次々に描いてきた。

 根底にあるのは「サッカー文化を根付かせたい」という思い。中でも一番大きかったのは94年の“ドーハの悲劇”だ。「本大会出場のほんの一歩手前でしたからね。悔しかったけど、日本サッカーがここまで来たんだと実感もした。もう一度応援したいと思った」と力を込めた。

 一方で今、右肩上がりで来た日本サッカーの停滞も感じている。「過渡期なのかもしれませんね。本田や香川に以前の勢いがなく、若い選手も出てきてはいるけど成長し切っていない。難しい時期なんでしょうね」と見ている。

 日本サッカー界の未来を描いてきた「翼」。東京五輪を戦う現実の日本代表には“マドリッド五輪”を戦う翼に負けない活躍を期待している。現在は漫画誌グランドジャンプ(集英社)で“マドリッド五輪”を戦う翼を執筆中。当然、3年後の東京五輪を戦う日の丸戦士たちへのエールも込められている。「地元開催ですからね。68年メキシコ以来のメダルが見たい」と期待した。

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2017年6月26日のニュース