[ 2010年3月6日 06:00 ]

岩山で眠る乙女ブリュンヒルデと恐れを知らぬ勇者ジークフリート

 「おお、ジークフリート、私はずっと前からあなたのものだったのよ!」「昔からそうだったのなら、いま、なっておくれ」「私はこれからもずっとあなたのものよ!」「これからもずっとそうなら、今日、ここでなっておくれ」

 ただひたすら、あなたが欲しい!と訴えるジークフリート。対するブリュンヒルデは多くのことに考えが及んでいます。ジークフリートとの出会いや運命、乙女から女性へ変わった自分自身、愛する人へ自分が与えることができることについて、果ては、ヴァルハル城の行く末まで。これに対してジークフリートは、今しか見ておらず、突き進むことしか頭にありません。ブリュンヒルデは、先々のことを考える現実的な女性の典型例なのです。  彼らのやりとりは、男女が交際を始めるパターンとしては、基本形とも言えるのではないでしょうか。大概のオペラであれば、心理描写をくどくど続けることはせずに、キスをし、抱擁をし合って終わりです。シンデレラよろしく「彼こそが白馬に乗った王子様だわ!」と、婚約を即決するでしょう。現にプッチーニの歌劇「トゥーランドット」では同じく男性知らずのトゥーランドット姫は、カラフ王子に熱いキスをされた瞬間に氷のような心を解かされてしまいます。
一方、ブリュンヒルデがジークフリートのものになるまでのプロセスは、岩山での劇的な出会いにも関わらず、ロマンティックさに少し欠けるものがあります。むしろ我々現代人のそこらへんに転がっているような恋愛に近いものであるとさえ言えるでしょう。

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2010年3月6日のニュース