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[ 2010年3月6日 06:00 ]

エッティンガーと東京フィルは、この豪華な歌手たちの声をかき消さぬようにと、バランス重視の演奏を繰り広げていました。ワーグナーの作品ではオーケストラも歌手同様に重要。このコンビは昨年よりも格段に、表現力をアップさせ、重責を十分果たしていたように感じられました。例えばローゲの動機は、実に繊細でキラキラとゆらめく炎の残像に包まれるようでした。動機の聴こえ方も格段にクリアになった感じです。さらに欲を言えばジークフリートが持ち合わせている、自制することが出来ず、ぐいぐい前に進んでいく感じや、大蛇の底から溢れ出る恐怖を覚えさせるような低音が、あと少し欲しいとこころ。第3幕から、動機が折り重なる濃厚な音楽が広がりましたが、オーケストラにもうひと頑張りしていただければ、「トーキョー・リング」は、世界と張り合うことができる名プロダクションになるのではないかと確信しました。

 ワーグナーは恐るべき芸術家です。波乱に満ちた人生を歩んだからこそ生まれた得た作品なのでしょうか。それとも神の啓示を受けた総合芸術家だったのでありましょうか。昨年2月に鑑賞した「ラインの黄金」では“欲望・憎しみ”が、翌月観た「ワルキューレ」では“愛・生命の宿り”が主題となっていました。そして本作「ジークフリート」のテーマは“成長・目覚め”だったと受け止めました。最終作「神々の黄昏」では、何を訴えてくるのでしょうか。こうなると、残りは“死”しかありません。どのような死生観を語ってくれるのでしょうか。来週は、コンシェルジェが「神々の黄昏」を解説してくれます。

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2010年3月6日のニュース