【内田雅也の追球】佐藤輝の守備鑑賞に見た希望 開幕前に不安は募っても、前を向きたい

[ 2024年3月23日 08:00 ]

オープン戦   阪神0ー3オリックス ( 2024年3月22日    京セラD )

<オ・神>2回、福田の打球を好捕する阪神・佐藤輝(撮影・平嶋 理子)
Photo By スポニチ

 作家・五木寛之は野球少年だった。布製の自家用グラブを作ったり、クラス対抗で投手をした思い出を随筆『風に吹かれて』(角川文庫)に記している。プロ野球をみる楽しみとして<感覚的にゲームに参加している>と書いている。

 <私は野球を見ながら、自分の記憶のなかから一つの追体験を行っていると思うことがあった。つまり、選手の一挙手一頭足に、自分の過去を重ねて共にプレイしていると感じることがある。ライナーを横っ飛びの捕球する野手の掌(てのひら)にピシッと来る衝撃を私は自分のものとしてスタンドで味わっているのである>。

 例にあげたプレーがあった。2回裏1死一塁、福田周平の三塁線ライナーを佐藤輝明が逆シングル、横っ飛び好捕した。

 佐藤輝は1回裏2死満塁のピンチでも紅林弘太郎の三塁頭上のライナーにジャンプ一番、好捕して失点を防いでいた。

 スタンドやテレビで観戦のファンは五木の言う追体験をしていたはずである。また野球をしたことがない者は好捕の快感を想像しただろう。

 甲子園で選抜高校野球が行われている。野村克也は『高校野球論』(角川新書)でその魅力を<さまざまな立場で楽しめる>としている。監督やプロのスカウトの立場や<特定の選手になったつもりで観戦する>。選手になりきって<試合を「する」のである>。

 多くのファンは選手の立場で野球を楽しむ術を知っている。大リーグでは野球場で観戦することを美術館での芸術鑑賞のように「テイク・イン」と言うことがある。「取り込む」といった意味である。ノーラン・ライアンの投球はよく「鑑賞する」と呼ばれた。

 日本では、かつて長嶋茂雄や掛布雅之の三塁守備を鑑賞してきた。佐藤輝もこの夜、8回裏に三遊間寄りゴロを好捕、好送球したように、守備で見せられるようになってきた。この日練習中には三塁線ゴロを好捕、飛び上がって一塁送球する美技を見て驚いた。

 守備で足腰が鍛えられ打撃にも好影響が出ているようだ。この夜も3安打。ここ4試合で17打数11安打と好調である。

 試合はオープン戦5試合目の無得点試合。大山悠輔、森下翔太、青柳晃洋……と主力に故障者が相次ぎ、不安が募る開幕前である。佐藤輝の鑑賞に希望を見て、前を向きたい。 =敬称略=
 (編集委員)

続きを表示

「始球式」特集記事

「落合博満」特集記事

2024年3月23日のニュース