【内田雅也の追球】18年前の、ちょっといい話

[ 2024年2月9日 08:00 ]

宜野座キャンプを訪れた福留氏(中央)(撮影・大森 寛明)
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 福留孝介が阪神キャンプ地・宜野座にやって来た。阪神のOBでもある。今は中日スポーツ評論家でキャンプ地巡りをしているそうだ。

 実は福留に長年、伝えたい、確かめたい逸話があった。2006年の第1回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)での話だ。

 福留は3月18日(日本時間19日)、サンディエゴ・ペトコパークでの準決勝・韓国戦で0―0の7回表1死二塁、代打で出て金炳賢(キム・ビョンヒョン)から右翼席に先制決勝の2ランを放った。劇的なアーチは目に焼きついている。

 逸話はその前日17日、ペトコパークで行われた公式練習の後、滞在先のホテルでのことだ。日本代表の裏方を務めていた日本野球機構(NPB)の職員たちに福留は「ライトを塩か酒で清めないといかんな」と言った。

 説明がいる。この大会、日本は予選リーグから、すでに韓国に2敗を喫していた。特に韓国の右翼手・李晋暎(イ・ジンヨン)にやられていた。1次リーグの東京ドームでは満塁から安打性の当たりをダイビング好捕された。2次リーグのアナハイムでは本塁突入の走者を刺された。韓国では「国民的右翼手」と呼ばれるようになっていた。だから福留は「韓国戦はライトが鬼門」と塩で清めるように言ったのだ。

 指示を受けたNPB職員たちはサンディエゴの町で塩を探した。ところが「日本のように、塩を袋詰めで大量に売っていないです」。困った彼らは袋詰めで売られていた砂糖を見つけ、「同じ白い粒だし、これでいいか」と買いこんだ。夜のペトコパークに忍び込んで右翼の辺りに砂糖をまいて“清めた”そうだ。

 彼らは「だから、あの準決勝、ライトは砂糖まみれだったんです」と笑っていた。「ライトに福留さんの一撃が舞った時は感激しました」

 あれから18年。話を伝えると「え!?塩じゃなくて砂糖をまいたの?」と福留は驚き、笑った。

 笑い話だが、実にいい話である。福留も感じたのだろう。「彼らが町中を塩を探し回った姿が目に浮かびます。裏方さんが懸命になってくれる。うれしく、そして強いチームのあり方ですね」

 福留に聞き、いつか書こうと思っていた話が書けた。阪神監督・岡田彰布も、だから裏方を大切にする。キャンプ中もシーズン中も打撃投手やブルペン捕手らをよく慰労している。 =敬称略= (編集委員)

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