【内田雅也の追球】野球人の悩み、迷いを表現する風雨 受け入れ、乗り越えていくのは一人じゃない

[ 2022年2月3日 08:00 ]

降りしきる雨の中、練習する阪神ナイン(撮影・平嶋 理子)
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 5日に1度風が吹き、10日に1度雨が降る。「五風十雨」は気候が順調、世の中が平穏無事なことのたとえという。

 訃報が伝わった石原慎太郎の書「五風十雨の味わい」が刻まれた石碑が狭山湖にある。所沢出張中の散歩で見つけた。東京都知事だった2002年、耐震工事完成を記念して書かれたそうだ。

 この日、沖縄には雨が降った。阪神の宜野座では昼すぎに雨脚が強まった。午後1時20分、メイン球場ではフリー打撃を取りやめた。少し前にはサブグラウンドでの守備練習も中止し、ドーム内に場所を移した。

 1カ月におよぶキャンプでは雨も降れば、風も吹く。自然といかに仲良く過ごせるかは野球人としてのテーマでもある。

 相田みつをの詩に『雨の日には雨の中を 風の日には風の中を』(角川文庫)がある。自身の解説で<雨の日には、雨を、そのまま全面的に受け入れて、雨の中を雨と共に生きる。風の日には、風の中を、風といっしょに生きてゆく、という意味です>とあった。

 人工芝や屋根付きドーム球場で風や雨や光と向き合うことが少なくなった。ただし、浜風も雨も黒土も天然芝もある甲子園球場を本拠地とする阪神の選手たちは、雨や風を受けいれる姿勢が必要だろう。

 相田はさらに<そして、この場合の、雨や風は、次から次へと起きてくる人間の悩みや迷いのことです>と記している。

 この日の練習でも、たとえば佐藤輝明がドームでのフリー打撃で打った後に首をかしげるシーンがあった。開幕に向け、誰もが悩み、迷いながら過ごしているのが実情だろう。人間的な野球というスポーツでは、それが日常なのだ。

 相田の詩に曲をつけた島谷ひとみの歌がある。<失敗ばかりの日々さ(中略)だけど「こんちくしょう」と奥歯咬(か)んで自分の道を行こう>

 <自分の道>は監督・矢野燿大がキャンプイン前日(1月31日)の全体ミーティングで選手たちに訴えた「超個人主義でいい」に通じる。自身の今季限りでの退任を伝えた際、「バチバチの競争からはい上がってこい」と語りかけたのだ。

 曲は<みんながほら 笑って応援してるよ 「一人じゃないさ」 行こう>と続く。個人主義だが一人じゃない。団体競技の野球のようである。雨風に負けるなというエールである。 =敬称略=

 (編集委員)

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2022年2月3日のニュース