中村紀コーチが教え子に残したもの、これから中日に残すもの 「いてまえ打線」の伝道師に期待

[ 2021年11月7日 05:30 ]

<中日練習>石川(左)を指導する中村紀打撃コーチ (撮影・奥 調)
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 2日、契約のため中日の球団事務所を訪れた新任の中村紀洋打撃コーチは、わずかに足を引きずっていた。99年に近鉄担当として初めて取材してからノリの一挙手一投足に注目してきた私が見逃すはずはない。すかさず「どうしたの?」と聞くと「子どもたちに動画を残すために張り切りすぎた。手もこんなやで」と豆だらけの手のひらを見せてきた。

 16年に学生野球資格を回復し、17年から浜松開誠館(静岡)で非常勤コーチとして高校球児を指導してきた。その教え子に置き土産として、自ら実演したフルスイングの神髄が詰まった動画をプレゼント。「全部残してやらんとあかんからね。ずっと引き継いでほしいから」。納得いくまで何度もスイングを繰り返し、全身が筋肉痛になったというのだ。

 中村紀コーチの指導動画はYouTubeにも投稿されており、分かりやすいと評判。日米通算404本塁打の技術を余すことなく収録した動画は、かけがえのない財産となるに違いない。

 その中村紀コーチは4日からスタートした秋季キャンプでも精力的に指導している。滑り出しは順調だ。初日は立浪新監督から育成を託された19年ドラフト1位の石川昂を熱血指導。「下半身で打つな、手で打て」と球界の常識を覆すようなアドバイスを送ると、ラインドライブ気味だった打球がバックスピンで伸びていく打球に変わった。石川昂は目からうろこといった様子で「いままで教えてもらったことないようなことを教えていただいた。すごく新鮮な気持ちだった」と好感触を口にした。

 2日目は18年ドラフト1位の根尾の打撃を劇的に変化させた。柵越えを連発する姿を見たテレビのリポーターから「2日間で一気に変わるんですね」と振られると「変わるんですよね。ぼくが教えると」。絶好調の“ノリ節”まで飛び出した。

 今季の中日はとにかく打てなかった。チーム打率(・237)はリーグ最低で、得点(405)、本塁打(69)は12球団ワースト。得点は120試合だった昨季の429にも届かず、本塁打は優勝したヤクルトの村上(39)、山田(34)の合計に負けた。いくらバンテリンドームが広く投手に有利な球場といってもこれでは厳しい。

 99年から02年ごろ、中村紀洋の全盛期は豪快さとうまさを兼ね備えた日本一の右打者だった。中日には石川昂、根尾だけでなく、岡林、高松、石垣、ドラフト1位のブライト、2位の鵜飼ら有望な若手がたくさんいる。技術だけでなく、チャンスでの勝負強さや、心構えも伝授してほしい。

 思えば近鉄電車が大阪から名古屋まで伸びているのも何かの縁。「いてまえ打線」の伝道師にフルスイングで沈滞ムードを吹き飛ばしてもらいたい。(記者コラム・中澤 智晴)

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2021年11月7日のニュース