【内田雅也の追球】阪神“開幕”ダッシュへ、歓喜と感謝の力 投手陣再編への第一歩

[ 2021年8月15日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神9ー3広島 ( 2021年8月14日    京セラD )

3回、本塁打を放ったサンズ(右)を迎える矢野監督(左)
Photo By スポニチ

 終戦の1945(昭和20)年8月15日、藤村富美男は福岡県折尾の山中にいた。「国土防衛の陣地構築をやっていた」と対談集『戦後プロ野球史発掘』(恒文社)で語っている。即日、広島・呉の実家に帰り、その後は進駐軍の雑役で人間魚雷「回天」の解体作業を行っていた。

 日本野球連盟関西支局長・小島善平から「スグカエレ」と電報が届いた。多くの球団役職員や選手の連絡先を記した小島の手帳が残っている。秋に東西対抗を行うとの連絡で藤村は「また野球がやれる」と、喜びで体が震えたそうだ。

 きょう15日、戦後76回目の終戦の日を迎える。戦中戦後を生き抜いたミスター・タイガースの話は語り継いでいきたい。

 戦禍と比べるわけでないが、コロナ禍の今の選手たちも野球ができる喜びを肌で知る。昨年は開幕が遅れた。行動は制限され、無観客試合や今も入場制限が続いている。

 東京五輪で選手たちが口にした大会開催への感謝は、プロ野球選手も抱いていよう。その喜びをグラウンドで示したい。

 喜びの爆発こそ――ガッツポーズはともかく――阪神監督・矢野燿大が目指す野球だろう。

 この夜はジェリー・サンズ、大山悠輔がそろって2打席連続で本塁打した。3、4番が連発すれば快勝も当然かもしれない。ただ、注目すべきは他にも得点圏の打席で梅野隆太郎が2安打、近本光司が安打と犠飛、四球と、チームとして9打数4安打と勝負強かった点だろう。

 エキシビションゲーム終盤から低調だった打線だが、矢野も「全員で吹っ切れるような試合になった」と話し、笑顔が見えた。ベンチはお祭り騒ぎのようだった。

 3月末の開幕、5月末の交流戦の開幕、そして今回の球宴・五輪中断明けの開幕と、節目での開幕ダッシュへ、勢いに乗っていきたい。

 好機での強さは藤村の真骨頂だった。ともにプレーした松木謙治郎が語っている。「チャンスで打席に回ると、並の選手は萎縮するなか、藤村は喜んで打席に向かっていった。そして、ここぞと言う時によく打った」

 戦後のプロ野球復活を告げる東西対抗戦(11月23日・神宮)に藤村は西軍の3番・二塁で出場した。中堅へのランニング本塁打を放っている。ホームラン賞はふかしたサツマイモ3個だった。

 「誰かに1個やって、あとは自分で食べた」と藤村の言葉が南萬満の『真虎伝』(新評論)にある。「腹ぺこだったのでうまかったなあ」

 苦しい時代を生き抜いた先人を思う。

 もう一つ。打線爆発の陰で後半戦のカギとなる投手起用があった。先発の二保旭が移籍初勝利を飾ったのは喜ばしい。さらに、若い及川雅貴が好救援を見せ、中継ぎ転向の新外国人ラウル・アルカンタラも8回表を無失点と好投してみせた。

 再編した投手陣が第一歩を飾った試合として、意義深い勝利となった。 =敬称略= (編集委員)

続きを表示

2021年8月15日のニュース