【内田雅也の追球】初球スタートの勇気が光る“幻の盗塁” 3得点で勝利貢献の阪神・近本

[ 2021年4月8日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神7ー1巨人 ( 2021年4月7日    甲子園 )

<神・巨>4回2死一、三塁、糸原の右中間二塁打で近本が一塁から生還(撮影・大森 寛明)
Photo By スポニチ

 阪神・近本光司が塁上にいる時は常にグリーンライトがともっている。ベンチからのサインなど関係なく、いつ走ってもいいという青信号である。入団から2年連続盗塁王なのだから、当然かもしれない。

 その過去2年、計90度の盗塁企図のうち、カウント別でみると、初球が27度(30%)で最多だった。次いで2球目が20度(約22%)。1、2球目で47度(約52%)と早いカウントで走っている。特に、初球から果敢に走るのが持ち味だった。

 今季の盗塁はまだ2個。打撃不振から6日まで打率・146、出塁率・167で、走る機会も少なかった。2盗塁はともに2球目だった。

 だから、この夜、一塁走者として初球からスタートを切ったのは今季初めてのことだった。

 0―0の3回裏先頭、四球で出塁。次打者・糸原健斗の初球に走った。糸原は打って右前打、無死一、三塁と好機が広がった。見た目はヒットエンドランだが、実際は近本盗塁のランエンドヒットだろう。一、三塁から糸原二盗、捕手の悪送球を呼んで先取点をあげたのだ。重盗(近本本盗)を警戒した二塁手・広岡大志が三塁走者・近本に気を取られすぎたのかもしれない。足の重圧はあったろう。

 4回裏は2死二、三塁から近本が二塁左へ内野安打して2点目をたたき出した。一、三塁から、近本はまた初球に走り、糸原が打った。打球は中堅右への二塁打となり、近本が長駆(ちょうく)生還を果たした。投手始動(近本スタート)から本塁生還まで、手もとの計測で10秒31。さすがの俊足で4点目を刻んだ。

 糸原が打ったため盗塁はならなかったが、近本の足が光っている。しかも初球から走った点に光を見たい。

 「足にスランプはないというのはウソです」と阪神現役時代、赤星憲広(現本紙評論家)が話していた。「3S(スタート、スピード、スライディング)+勇気」と言われる盗塁の要素を「勇気+3S」と言い換えた。入団から5年連続盗塁王となった赤星は「勇気があってこそ走れる」と、失敗の恐怖や不安を振り払う勇気を重んじた。

 盗塁は幻となったが、近本は初球から続けざまに走る勇気が見えた。ともに得点に結びついた。

 6回裏には先頭で中前へ快打した。一塁上で今度は走らなかったのは、5点の大量リードがあったからか。一塁走者として8球、スタートを切らなかった。福本豊(阪急)や広瀬叔功(南海)ら往年の俊足走者は、大差がついた時など、勝利に直結しない盗塁はしなかったそうだ。

 2死後、大山悠輔の三塁線二塁打で再び一塁から生還した。これも俊足だからだ。投手始動(スタートなし)から生還まで11秒50だった。

 1番打者として3得点を記し、勝利に貢献できた。赤星が現役引退直後の2010年3月に出した著書『決断』(集英社)で<盗塁というのはチームプレーのひとつ>と記している。<次のバッターに待ってもらって助けてもらうこともあるし、決して自分だけでできることではない。だからこそ、その盗塁が得点につながることが一番のやりがいだし、走る意味でもあると思う>。この点では盗塁こそ記録されなかったが、近本には満足いく走塁だったことだろう。

 もう、打撃のスランプも脱したはずだ。阪神には待ち望んだ、そして喜ばしい、近本復調が見えた快勝劇だった。=敬称略=(編集委員)

続きを表示

「始球式」特集記事

「田中将大」特集記事

2021年4月8日のニュース