【内田雅也の追球】「ミスの法則」と「2階」 流れ手放し逆転負けの阪神 フロントを見るな

[ 2020年10月11日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神3―5DeNA ( 2020年10月10日    甲子園 )

5回、柴田の打球を小幡が失策
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 流れと大局観について書きたい。

 敗戦後、監督・矢野燿大も話したように、阪神は序盤の拙攻で流れを手放した。1回裏、2点先取後の無死一、二塁、2回裏の無死満塁でともに無得点など、4回まで残塁9を数えていた。

 それでも1点リードして迎えた5回表。無死一塁での遊ゴロ失策が痛い。同点を招いた。

 1回裏に同じ無死一塁で相手の三ゴロ失策があり、得点している。プラスマイナスで考えれば、ミスとミスで相殺されそうだが、実は違う。

 同じ勝負の世界に生きるプロ棋士・羽生善治が<ミスの法則>として『決断力』(角川書店)に書いている。<たとえば、最初に相手がミスをする。そして次に自分がミスをする。ミスとミスで帳消しになると思いがちだが、あとからしたミスのほうが罪が重い。そのときの自分のミスは、相手のミスを足した分も加わって大きくなる>。

 なるほど、ミスで得たプラスも含めてできていた流れをあとからのミスで失うわけか。羽生は<マイナスの度数が高い>と表現している。

 この失策が出る直前の攻撃、4回裏無死一、二塁でも送りバントを失敗している。後に大山悠輔が右前適時打して1点を勝ち越したが、バントが成功していれば2点入っていた。二塁走者が投手で難しいバントだったが、第1ストライクで投手正面だったのは残念だった。

 こうしたミスの法則は大局観につながる。指揮官として采配をふるう監督はもちろんだが、実際にプレーする選手たちも身につけておきたい。

 野球は失敗のスポーツだと言われる。羽生ほどの天才でも<実は、将棋では、勝ったケースのほとんどは相手のミスによる>としている。ならばミスにどう向き合うか。将棋の上達法は<初心者のころと今も変わらない>として<対局が終わったら検証し、反省する>。そして研究である。野球ならば練習だ。この繰り返ししかない。

 突然だった球団社長・揚塩健治の辞任発表があった翌日である。新型コロナウイルス感染者を多く出したチームにとってグラウンド外でまた落ち着かぬ動きとなった。

 球団社長の交代には人心一新で再出発の意味があろうが、新しい後任の社長が未定では、何とも中途半端ではないか。フロントの背広組が落ち着かなければ、現場のユニホーム組にも影響する。

 こんな時、監督は<2階を見るな>とスパーキー・アンダーソンが自伝『スパーキー!』(NTT出版)で助言している。ア・ナ両リーグ監督としてワールドシリーズを制した名将である。2階とは球場でフロント陣がいる球団事務所を指している。甲子園で言えば、クラブハウスの3階である。

 <彼らは彼らで問題を抱えている。自分の抱える問題は(中略)選手と一緒に解決するよう努めることだ>。

 何も社長交代で浮き足だったわけではなかろうが、グラウンドに集中せよ、という警句として受けとめたい。=敬称略=(編集委員)

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2020年10月11日のニュース