【タテジマへの道】高山俊編<上>幼少期から強豪進学までの道のり
スポニチ阪神担当は長年、その秋にドラフト指名されたルーキーたちの生い立ちを振り返る新人連載を執筆してきた。今、甲子園で躍動する若虎たちは、どのような道を歩んでタテジマに袖を通したのか。新型コロナウイルス感染拡大の影響で自宅で過ごす時間が増えたファンへ向けて、過去に掲載した連載を「タテジマへの道」と題して復刻配信。第10回は、15年ドラフトで1位指名された高山俊編を2日連続で配信する。
小学6年生の秋から冬、少年は大きな決断を迫られていた。中学では、どのチームでプレーするか―。いまにつながる、俊の一大決心だった。
和歌山県から千葉県船橋市に高山一家が越してきたのは俊が小学1年の夏だった。同じ頃に野球を始めた。地元の軟式少年野球チーム「ホワイトビー・ストロング」に所属。5年半の間に数々の大会で優勝し、6年時にはNPBジュニアトーナメントでロッテマリーンズJr.に選出され、準優勝も飾った。千葉県内の同世代の間では有名になり、中学進学前には複数の強豪チームから誘いを受けるなど、エリート街道は用意されていた。
なぜ悩んだのか。同時期に父・辰雄さんの大阪府豊中市への単身赴任が決定。母と妹との3人暮らしが始まっていた。選ぶチームによって母・由美子さんの負担は違った。
たとえば、練習体験で訪れた県内有数の強豪クラブは練習場が自宅から遠かった。通うなら毎日母に車で送迎してもらうしか手段がない。「周りの保護者もすごく熱心にサポートされていたし、毎週できるだろうか」。母が胸の奥で隠していた不安を察したのか、体験練習からの帰り道で「ここは別にいいかな」とつぶやいた。いぶかしがる母に「なんか手も痛くなっちゃったしね」と笑った。
本音かどうか母は分からなかったが「気づいて感じたところもあるのかな」と息子の胸中を思った。同じ頃に練習体験に参加したのが当時創設3年目で実際に俊が選ぶことになった「船橋中央シニア」だ。同学年の部員は5人。専用球場もなく、内野の面積より狭いグラウンドで練習することもあった。強豪でもなければ恵まれた環境でもなかった。
当時から同シニアのGMを務める掛川勉氏(51)は出会いを鮮明に覚えていた。「グラウンドに入ってきて歩いている姿を見てアスリートなんだなって感じました」。コンディショニング・トレーナー関連の仕事に就いていた同氏にとって俊の身体の柔軟性は衝撃的だった。「こういう子はプロに行くんだろうな。ウチには来ないだろうな」と思った。だから、次の日も俊の姿を見て驚いた。
実は、初日の帰り道で母に告げていた。「僕、ここでやるよ」。家族には相談もせず即決。何に魅せられたのか。練習場までの往復に車は必要なかった。自分で自転車に乗れば、10分強で行けた。
入部後は、少人数チームだから可能な個別指導を受けた。「自己管理能力の養成」の方針からのびのびと育てられた。練習内容も特徴的で、捕球姿勢の練習だけで2時間を費やすことも。他にも大学のトレーナーが年2回訪れ、丸一日かけたフィジカル面の指導も受けた。強い体の基礎ができた。母を思って選んだ道は、決して遠回りでなかった。
「船橋中央シニア」は大会に出れば、1回戦敗退も珍しくなかった。全国大会に出場した小学校時代の球友の近況を聞いても、「あいつら凄いな」と感心するだけで、後悔の言葉を一度も口にせず、3年間の中学野球に打ち込んだ。
日大三高、明大というアマ球界の名門へと駆け上がる土台は、同学年わずか5人のチームで過ごした3年間で培われた。だから、中学卒業後も俊は、原点に立ち帰るように、帰省のたびにグラウンドまで自転車をこいだ。
◆ ◆ ◆
少年時代の俊は、大きなケガとは無縁の人生を歩んできた。強じんな身体の原点は幼少期にある。母・由美子さんは「不思議とけがをしないんですよ。転んだり、落ちたり、常に後ろから見てないと不安で仕方ない子でしたね」と懐かしそうに当時を振り返る。
1993年4月18日、福井県あわら市内の病院で産声を上げた。体重は3200グラム。両親の「何か一つに秀でてくれれば」という思いから、才知が飛び抜けて優れているという意味を持つ「俊」と名付けられた。長野県松本市で生後9カ月まで暮らした後、父・辰雄さんの転勤により和歌山県和歌山市へ。小学1年の夏休み終わりに千葉県船橋市に生活拠点を移した。
そこで野球と出合う。それまでは3歳から始めた水泳と少し空手を習った程度。両親も、野球をやらせるつもりはなかったという。そんな折に船橋市に越して間もなく、辰雄さんがおもむろに「俊、キャッチボールしようか」と声をかけた。「単によくある親子のキャッチボールをしたくなって。引っ越したばかりでその土地にも慣れてほしかったですし」。そんな思いから近くの公園でボールを投げ交わした。「ドッジボールが強いと聞いていたけど、なるほど、肩は強いなと思いました」と手のひらに残る感触を辰雄さんは今でも覚えている。
体がひときわ大きく目立っていた俊は、少し話題になった。キャッチボールをする高山親子を見ようと少年たちが1人、また1人と公園に押しかける。そして、2歳上の先輩が誘ってくれたチームが「ホワイトビー・ストロング」だった。俊は乗り気ではなかったが、この時だけは珍しく辰雄さんに「やってみたら良い」と勧められて入団を決意。小学3年で主に捕手でレギュラーを獲ると、4年では千葉県内の大会で3冠王に輝くなどセンスの高さをすぐに発揮した。
俊の負けず嫌いな性格を物語るエピソードがある。中学最後の大会で俊はホームランを放ったもののチームは初戦敗退。試合後、珍しく人目をはばからず泣きじゃくっている所に1人の審判員が歩み寄って来た。俊の放ったホームランボールを持って…。記念に…との思いで、日付などを記して届けに来てくれたという。
「負けたんだから、そんなの意味が無い! いらない!」
涙で頬をぬらし、そう言って受け取らなかった。最後は母・由美子さんが代理で受け取った。同チームのGM掛川勉さんは「この歳でここまで負けず嫌いなやつがいるんだと思わされました。でも、今にしてみると、こういう強い気持ちを持っている子がプロになっていくんだなと感じます」と振り返る。
中学時代は全国大会出場経験無し。県大会でさえ1回戦負けの常連だった。ある日、掛川氏は、俊にたずねたことがあった。
「なんでお前はここに入ったんだ?」
しかし俊は「何となくですよ」と無邪気に笑って返しただけ。悔しくないわけがないが、先の舞台を見据え、そこにたどり着くために自分で最善の選択を重ねてきた。最後も「ここ(船橋中央シニア)で良かったです」と言っている。
中学3年の春には、同年代の選手の進路について噂が飛び交うようになるが、俊に具体的な話はなかった。不安になった母・由美子さんが進学塾への入塾を勧め、受験勉強対策を始めさせたほど。勉強があまり好きではなかった俊だが、この時ばかりは“普通の中学3年生”として他の生徒と机を並べた。
そんな中、俊を一目見ようとグラウンドを訪れたのが日大三の小倉全由監督だった。「良いやつがいる」と船橋中央シニアのGM・掛川勉氏が橋渡し役となり、初対面が実現。小倉監督は当時を鮮明に覚えている。
「やっぱり魅力はパンチ力。当たれば勝手に飛んでいく。ほれぼれするようなスイングをしていたよ。身体も大きかった。恵まれた体つきをしていたね」
注目度が高いわけではなかった俊について「掘り出し物を見つけたような気持ち」と小倉監督。「全国大会なんかに出てなくて、ウチとしてはラッキーだったかな」と冗談交じりに笑顔を浮かべ、幸運をかみしめる。
「高校生になったら、もっと遠くへ飛ばせるようになるぞ」と言葉を残してグラウンドを後にした名将が練習を視察したのはこの1回だけ。それでも思いは通じ合っていた。「三高で野球をやろうと思う」。数日後に俊は決意を固め、両親やチーム関係者に伝えた。
そうして名門野球部に入部したが、出だしは順調ではなかった。「大型遊撃手」と期待されたが練習でミスを連発。さらに、初めての寮生活のストレスからかたびたび発熱して練習を欠席した。「聞いていた話と違うじゃないかと(笑い)。何でそんな良い体で、しょっちゅう熱なんか出すんだと本人にもよく言いましたね。とにかくショートは向いてなかったね」と小倉監督も頭を抱えたという。
それでも、素質が一級品なのは間違いなかった。体調面も時間とともに安定し、守備も外野手へ転向し、はまった。俊足、強肩、強打の3拍子をそろえた大型外野手として、1年秋から1番打者としてレギュラーに定着。無名シニアで3年間を過ごした俊にとって、まさに逆襲の時が訪れた。このまま順調にステップアップしていくかに見えた。が、野球の神様はまたしても俊に試練を与える。(2015年10月25日~同28日付掲載、一部編集、あすに続く)
◆高山 俊(たかやま・しゅん)1993年(平5)4月18日生まれの22歳。小1から野球を始める。七林中では船橋中央シニアに所属。日大三では1年秋からベンチ入り。春夏通算3度甲子園に出場し、2年春準優勝、3年夏に全国制覇。明大では1年春からベンチ入りし、1年春、2年秋、3年春秋、4年春にベストナイン。リーグ通算131安打(24日現在)。1メートル81、86キロ。右投げ左打ち。
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