【内田雅也の追球】「うぬぼれ」と「謙虚」――進撃の自信も薄らぐに阪神へ

[ 2019年10月11日 08:00 ]

セ・CSファイナルS第2戦   阪神0―6巨人 ( 2019年10月10日    東京ドーム )

<セCSファイナル 巨・神2>5回1死一、二塁、ダブルスチールを許す梅野(撮影・木村 揚輔)
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 主に戦後活躍した落語家、5代目・古今亭志ん生が自身の半生を語った『びんぼう自慢』(ちくま文庫)は「貧乏はするもんじゃありません。味わうものですな」など名言が収められている。

 なかに「うぬぼれてはいけません」という有名な話がある。他人の噺(はなし)を聞いてどう感じるか。

 「人間にゃ誰だって多少のうぬぼれがありますからね。“オレと同じくれえかな”と思うときは、向こうのほうがちょいと上で、“こいつァ、オレよりたしかにうめえや”と感心した日にゃァ、そりゃァもう格段のひらきがあるもんですよ」

 なるほど、心に留め置きたい警句である。落語でも、野球でも、相手と自分との力量差をはかる物差しなどない。正確にはかるのは難しい。

 ただし、この彼我の差をできるだけ正確に、どれほどかを見極めることがその後の成長のカギとなる。目標を立てやすくなるからである。

 今の阪神だ。優勝の巨人とギリギリ3位では差があるのは確かだ。ゲーム差は6だった。対戦成績は10勝15敗。大差なのか、小差なのか。いや、どれぐらいの差なのか。この差を埋めるには何が必要なのか。目の前の試合はもちろんだが、来季を見すえて、この見極めが重要である。

 何も監督・矢野燿大だけの仕事ではない。この日ビジター球団室で観戦したオーナー・藤原崇起以下、球団の仕事だ。だから、この夜の試合もしっかり見ておきたい。

 試合はシーズンのゲーム差のように0―6の完敗だった。打線は散発3安打。守ってはやられ放題だった。先発・高橋遥人は立ち上がり、いきなりの長短打から失点。早めに起用した2番手ガルシアは4回裏はゲレーロに2ランを被弾。5回裏は1死一、二塁から重盗を決められ、犠飛に適時打と追加点を許した。重盗は投手コーチ・福原忍がマウンドで助言を与え、タイムが解けた直後の初球で無警戒だった。

 レギュラーシーズン終盤の6連勝やクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージでの激闘で、このファイナルステージまで来た。奇跡とまで言われた進撃で得た自信もうせてしまうような内容である。

 今の阪神に「うぬぼれ」はないと信じている。ただ、何度か書いてきたが、大リーグ歴代3位、監督通算2728勝のトニー・ラルーサをしても「野球は人をいつも謙虚にさせてくれる」と語っている=ジョージ・F・ウィル『野球術』(文春文庫)=。謙虚にいきたい。

 そして、もう1敗もできない崖っぷちだ。ただ、今季の阪神は、大リーグ風に言えば「マスト・ウィン・ゲーム」を幾度も勝ちきって、今の位置にいる。「矢野が身上に掲げた「超積極的」「あきらめない」「誰かを喜ばせる」。いま一度、自分たちがやって来た原点を思い返したい。=敬称略=(編集委員)

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