【内田雅也の追球】童話への恩返し――「敗者」阪神が抱くべき信念

[ 2019年9月22日 08:30 ]

セ・リーグ   阪神4―2広島 ( 2019年9月21日    甲子園 )

<神・広>9回に登板し最後を締めた阪神・藤川
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 戦後間もない青森での小学生時代、来る日も来る日も野球に熱中していたという作家・寺山修司が書いている。

 <子どものころ、美しすぎる童話を愛読したものは、大人になってから、その童話に復讐(ふくしゅう)される>。

 箴言(しんげん)集『両手いっぱいの言葉』(文化出版局)にあった。

 貧しくも心美しいシンデレラは王子さまと結ばれ、正直者の男はわらしべ長者となり、鈍いかめは怠け者のうさぎより先にゴールする。

 だが、現実は厳しい。大人になるにつれ、夢や希望を描いた話に仕返しされる。寺山らしい、毒気を含んだ言葉である。

 そうだろうか。いま一度、夢や希望を抱きたい。

 阪神逆転勝利の試合後、甲子園球場内の選手通路で9回表を締めた藤川球児が立ち止まった。「勝ちたいというファンの人たちの熱が何かを起こしてくれるんですよ」

 2点を追う6回裏、クリス・ジョンソンが2個も暴投して同点が転がり込んだ。8回裏、この日は右翼に風が吹く逆風の六甲おろしを突っ切り、北條史也のライナーは最深部の左中間に飛び込んだ。相手投手の指先を乱したのも、打球を後押ししたのも、ファンの熱なのだと真顔で言った。

 クライマックスシリーズ(CS)進出へ1敗もできない状況で、この日も入場券完売、超満員4万6千観衆が訪れていた。

 「だからあきらめるとダメなんですよ。あきらめずにやっていると、ファンの熱が力になるんです」

 ベーブ・ルースも「あきらめないヤツを負かすことはできない」と語っている。監督・矢野燿大も「誰かを喜ばせる」と繰り返している。美しい言葉、きれい事が力になるのだ。

 藤川は「名前が“球児”だし小さいころから、絶対に野球選手になれると信じてやってきました」と、2012年に出した著書『藤川球児のピッチング・バイブル』(日本文芸社)で語っている。子どもたちに向け「地道な努力を繰り返していくことが大きな夢につながる」と断言した。

 パ・リーグで「灰色球団」と呼ばれた阪急、「お荷物」と呼ばれた近鉄を球団初優勝に導いた闘将・西本幸雄は言った。「理不尽で、世知辛い世の中だけどな。努力していれば、事を起こせると証明したかったんや」

 夜には球団創設時からのライバル巨人が優勝を決めた。敗者として、悔しさを胸に刻み、勝者に敬意を示したい。

 やはり、子どもたちは美しい童話を読んでほしい。そして猛虎たちは夢を描いてほしい。これはもう信念である。いつか「夢がかなった」と、童話に恩返ししたくなる日が来る。(編集委員)=敬称略=

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