負けても負けても愛されるチーム――「5000敗」阪神が目指すべき「貢献」

[ 2019年9月15日 09:00 ]

阪神公式サイトにある「球団の基本姿勢」(上)と毎年まとめている「社会活動報告書」
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 【内田雅也の広角追球】阪神が球団創設以来、公式戦通算5000敗を喫した翌日(11日)、日々書いている『内田雅也の追球』で<ファンへの5310勝目>と題したコラムを書いた。

 2007年に大リーグ史上初の1万敗を喫したフィラデルフィア・フィリーズと阪神タイガースが、どうも似ているといった内容である。この大きな節目の敗戦を見届けるため、わざわざフィラデルフィアに足を運んだノンフィクション作家・佐山和夫さんの著書『大リーグ・フィリーズ10,000敗』(志學社)を参考にした。

 一つは町にも球団にも歴史と伝統がある点だ。フィラデルフィアはアメリカ建国の町で大阪は古都として古くから栄えた。フィリーズは1883年、タイガースは1935年、ともにリーグ創設と同時に誕生している。

 もう一つは弱くてもファンが多いことだ。フィリーズがワールドシリーズを制したのは1度きり(当時。2008年に2度目の制覇)、タイガースの日本シリーズ制覇も1985(昭和60)年だけだ。負けることも多く、フィリーズは最速で1万敗、阪神もDeNA(元大洋など)、オリックス(元阪急)に次いで3番目に5000敗に到達したわけだ。

 それでも、両球団とも熱狂的で、浮気などしないいちずなファンに支えられてきたわけだ。

 <1万敗球団をどうして皆が応援するのか>と自問自答した佐山さんが<そのわけが、少しはここに読める>として記していたのが、球場内売店でもらったポリ袋に印刷された言葉だった。

 「フィリーズの野球は、勝ち負けだけのものではありません。この地域に尽くしたいというフィリーズの努力により、ここフィラデルフィア地域の何百万人の人々は、この球団から何らかの恩恵を受けています」

 この後に活動の一端が記されていた。▽ALS(ルー・ゲーリッグ病=筋萎縮性側索硬化症)撲滅のためのフェスティバル▽放課後や夏休みの野球教室▽地元への100万ドルを超える寄付……とある。球団ではなく、選手個人の社会貢献活動も盛んだ。なかには人気マスコット「フィリー・ファナティック」も活動しており、小学校を周り「1日15分は本を読みましょう」と指導している。

 佐山さんは1万敗の夜に立ち寄ったスポーツバーで年配の店員から聞いた言葉を思い出したそうだ。「“負けて勝つ”というやつですよ。負けたようでいて、勝っている」

 そして書いた。<地域社会への地道な活動を通じて、ファンの心をつかんでいる。その意味で彼らは1万敗どころか、常勝を遂げているのだ>。

 阪神タイガースがならうべきは、この姿勢だろう。いや、すでに阪神も地道な活動を続けている。掲げる「ドリームリンク・プロジェクト」は社会貢献、地域振興、ファンとのふれあいを3つの柱とする。

 たとえば、マスコットのトラッキー、ラッキー、キー太の幼稚園・保育所訪問は2003年から昨年までで484園、約7万1000人の子どもたちと楽しい時間を過ごした。

 グラウンド外の活動をたたえる若林忠志賞は2011年に創設。活動内容をそれぞれで、桧山進次郎、藤川球児、岩田稔、久保田智之、能見篤史、鳥谷敬……と毎年、すぐれた表彰者を輩出している。

 阪神タイガース公式サイトで公表している「球団の基本姿勢」には「ありたい姿」として、こう書かれている。

 「タイガースに関わるすべての人が誇りと愛着を持ち続けることができる球団」「魅了するプレー、非日常のスタジアム空間での体験で最高の思い出を提供する球団」「子どもたちの健全な育成に貢献する球団」

 確かに野球場(甲子園球場)は、ファンは熱狂・興奮できる「非日常」的な祝祭空間である。だとすれば、球場外の社会貢献や地域密着の活動は「日常」だ。真に愛されるチームとなるには、選手として、そして人間として日々の姿勢が問われている。(編集委員)

 ◆内田 雅也(うちた・まさや)1963(昭和38)年2月、和歌山市生まれ。1985年入社。2003年から編集委員(現職)。2009年オフにスポニチ紙面(大阪本社発行版)で連載した『若林忠志の見た夢~セ・パ60年』を基に、大幅加筆し、2011年1月、『若林忠志が見た夢』(彩流社)を書いた。同年、阪神が若林の功績を再評価する契機となり、球場外の活動をたたえる若林忠志賞を創設した。

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