虎のイニングイーター―阪神・西勇輝の覚悟―

[ 2019年6月29日 08:00 ]

キャッチボールで調整する西(撮影・大森 寛明)
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 阪神の西勇輝投手(28)が本紙の独占インタビューに応じた。ここまで13試合に先発。3勝6敗ながら、クオリティースタート(6回以上投げ、自責3以下)は実に10度を数える。チーム勝ち頭の青柳とともに開幕からローテーションを守り続け、投球回91回1/3、防御率2・76はともにリーグ3位。虎の「イニングイーター」は、リーグ戦が再開される後半戦もフル回転を誓った。(取材・構成 吉仲 博幸、山本 浩之)

 
 ―前半戦は3勝6敗だが、QSが13試合中10度。今の成績をどうとらえているか?

 「イニングは食えているかなと思っています。(自分の)勝ち負けは気にしない。チームが勝てればいいと思っています。負けがついたら素直に悔しいし、チームにもその負けが直結するんで、勝敗を勘定の中には入れているだけで、自分につく結果の勝ち負けはなるべく気にしないようにしています。焦りもありません。ケガをせず、1年間をまっとうしてイニングを食えれば、おのずと評価される。イニングに関する評価が日本ではまだ低いように感じます。プロ野球は、長いイニングを投げることがすごいことだと僕は思っています。5回を1年間放り続けて10勝するピッチャーと、9回まで完投能力のあるピッチャーが1年間放るのとでは全然違う。QSが10回というのはよくできた数字だと思いますし、順調に数は消化できていると思っています」

 ―自身の勝敗はまったく気にならない?

 「先発はやはりイニングだと思っています。気にしないですね」

 ―カード頭を託されることが多い。一線級の投手と投げ合うことが多かった。

 「それも気にしないですね。相手ピッチャーがどうだからって自分のピッチングは変わらない。打たせない、何イニングを放る、フォアボールを出さない、エラーをしない。この4つを守るだけ」

 ―相手も一線級の投手だから打線の援護が少ない。負担がかかるのでは?

 「その負担もあまり感じません。正直、苦しいのは苦しいです。何でかと言うと、世間からはやはり勝ち星で評価されることが多いので。だから、気持ちが入り交じっています。カード頭の宿命、チームを背負うピッチャーの心得じゃないですけど、やらないといけないなという自分の立場も分かっているので。球場だったり、ベンチやロッカー、投げない日の立ち居振る舞いも大事。選手に逆に気を遣わせて、打たなあかんと思わせる先発ピッチャーもどうや?と思いますから。だったらエラーしても気にしないとか、エラーしたら助けるだとか、相乗効果で頑張っていけたらと思っています」

 ―甲子園の広島戦(5月17日)でマルテに失策がつかないまずい守備が2度あった。それでも顔に出さなかった。心掛けていることは?

 「エラーして、ムスッとするピッチャーはいると思いますが、高校生の時、1年生の子が3年生のピッチャーが怒っていたら怖いと聞いていたし、怒っても何も変わらないので。ガクッとしても変わらない。結果はヒットやし、ランナーはいるし。ガクッとしたら、ヒットやランナー取り消しにならないでしょ? だったら、プラスに考えようと。自分が投げた球が悪かった、自分の悪い所を探したり、次のバッターのことを考えた方がまだプラス。だから、マルテ、北條、木浪、糸原らは存分にエラーしていいと思う。それが自分の今後の糧になると思うから。まだ自分が救える結果が多いのかな。高橋遥人ら若手ピッチャーが投げる試合はしっかり守ってあげて遥人らを楽に投げさせるのが大事。2アウトで僕の時にエラーしても次のバッターを抑えたらええやと言えるのと、遥人ら若手がいっぱいいっぱいの時と全然違うと思うので。青柳の時もそう。そこをかばってあげられるのはカード頭を任される投手かなと」

 ―西投手の姿を後ろの選手は見ていると思う。

 「別に感じなくてもいいと思うんですよ。感じさせるためにやっていないので。思いきってプレーできなくなったら、だめだと思うので。(先発投手だと年齢が)メッセンジャー、岩田さん、僕の順なので、気を遣う順番もあるだろうし。同級生なら、まあ、しゃあないかと思うだろうし。次やらなかったらいいみたいな。ただそれだけです。昔、そう言ってもらえたキャッチャーがいたんです。“俺の配球のせいだ”と。どれだけ救われたかと思いましたし、そういう存在でありたいなと思っています」

 ―甲子園の広島戦(5月17日)では後続の島本、守屋が打たれた。ベンチの前に出て2人をねぎらうシーンが印象的に映った。

 「ああいうのは先発ピッチャーが全員やるべきだと思う。僕の尻ぬぐいをしてくれているわけですから。自分が投げられないから、投げきれなかったから中継ぎが投げてくれているので。出なくてもいい場面で、準備していなかったかもしれない。そのピッチャーを僕がわざわざ呼び起こしてしまったわけで“ごめんな、守屋”とか“ありがとう”も込めて、前に行くのは当然だと思う。この前(6月14日・オリックス戦)だったら藤川球児さん。3点取られたけど、8回の頭から準備していたかもしれない。自分が投げている時は(ブルペンが)どういう展開かわかっていないので。どんな状況でも降りてきた時には感謝の言葉を絶対にかけるべきだと思っています。マウンドを降りてからも声を出すし“ありがとうございます”は絶対に声をかけたいと思います」

 ―長いシーズン、いろんなことがある。

 「13試合投げて、自分が本当につぶしたのは2試合だけかな。中日戦とオリックス戦、自分の中での失敗と思ったのは。プラスにとらえているから、何も心は痛くないですね」

 ―1000奪三振を記録した。投手として一つの勲章では?

 「三振数より、やはり僕はイニングですね。三振は歴代のキャッチャーのおかげです。その人たちの配球がなければ、三振はとれない。若手の時なんて、もっとそう。日高さんだったり、鈴木さんだったり。斎藤さん、辻さん、(伊藤)光さんらいろんなキャッチャーに受けてもらって。(梅野を含め)すべてのキャッチャーの方々に感謝したい。イニングは野手全員のおかげ。三振は投げて受けるキャッチャーがいて成り立つものだから、そこは数々のキャッチャーとスコアラーに感謝したい」

 ―投手として何よりも重きを置くのはやはりイニングを食うことなのですね?

 「はい。ここ数年はずっとイニングです。イニングさえ投げれば、自分の仕事をしたってピッチングコーチにも言われてきました。昨年は12球団で一番、援護率がなかった中、2桁いっても何もすごいと思われなかった。イニングを5、6年投げてきたことに、自分は胸を張っています。ケガをせずに10勝して。だったら、170イニングを10年続けたりだとか。石川(ヤクルト)さんは、十何年と続けているじゃないですか。その方がすごい。ずっとケガをせずに、2600イニングくらいでしょうか? 本当にすごいと思う。続ける大変さ。すごいパフォーマンスを持っていないけど、ケガしない能力は持っているという自負があります。ケガせず、ずっと投げ続ける。チームの言われたところで矢野監督が言われたところで投げる。ただ、それだけです」

 ―セ・リーグにやって来て変化を感じますか?

 「バッティングがあるからなおさら楽しい。(打撃は)ノープレッシャーですから。向こうがプレッシャーなので。“西は打ってくる、バントもする”って。甘いところにきたらたまたまヒットすると思われているだけ、全然得だと思うので」

 ―打撃で投球リズムは変わらないか?

 「変わらない。ただ、純粋に野球を楽しんでいます。これまでパ・リーグでずっとやってきたし、交流戦でたまに打ったりするけど、パ・リーグのままでやれている感じですね。全然何とも思わない。(投手に)打たせたらしんどいし、(自分が出塁して)塁上でハアハア言ってるけど、ベンチに帰ってきたら落ち着く。そこは練習で補えるし、楽しいですよ。ちょうど10年やってきたし、節目のいい機会で、いい状況でできています。変化や環境は自分が求めてきたので」

 ―若い投手が多い。高橋遥や青柳にアドバイスもしている。そういう役目を感じるか?

 「僕もしゃべるのが嫌いじゃないし、求められたらしゃべってあげたい。遥人とか、青柳、浜地、守屋、シマ(島本)あたりは積極的に会話しています。ちょっとした自分の意見、考え、アドバイスは言ったりしますね」

 ―私生活のアドバイスも?

 「守屋は結構聞いてきますね。睡眠や食事の話など。自分がよく言うのは、打たれた後の切り替えですね。自分も経験があるので、勝てない時とかに伝えてあげたいなと思う。自分も(年齢的に)いいタイミングでこのチームにこれたと思うし。オリックスも若手が多いし、若手の(気持ちの)上げ方はわかっています。きつく言ったらへこみそうな奴にはうまく盛り立てて、尊重して意見を聞いてみたり」

 ―モデルになった投手はいるのか?

 「オリックスの時は年上の投手が平野さんや比嘉さんや岸田さんでした。7、8歳上の方が多く、この方たちの間にいたら助かるだろうなという先輩になりたかった。パイプ役といいますか。中継ぎで8、9歳上の人にガツンと言われたらへこむし。なら、間に入って、盛り立てて、聞いてあげて、アドバイスできる先輩がおったらうれしいんとちゃうかなと。僕はそういう人におってほしかったんで。だから、自分は積極的に後輩にしゃべりかけられるのかなと思う。たわいもない話でいいんですよ。ただ、しゃべるという行為がすごく大事。そこから野球の話も広がるし、何を思っているかもわかる。悩んでそうな顔をしているのにしゃべりかけない先輩より、声をかけられる先輩の方が絶対いい。自分がやった方がいいと考えながら、やっています」

 ―最後に、後半戦に向けの意気込みを。

 「一番、ここからが大事になってくる。ホーム球場がドームと違って外ですし。梅雨もあるし、雨、湿気、夏の暑さ…。若手の多さ、中堅の少なさ。選手層の薄さ。福留さん、糸井さん、鳥谷さんにおんぶに抱っこは卒業しないと。じゃないと、強いチームにはならない。強いチームは誰が抜けてもそこに入れ代わる選手が出てくる。近本、木浪が出てきて良かったし、大山も4番として成績を残せれば、強くなる。それが出来るメンバーだと思う。ピッチャーも守屋、島本が出てきて抑えているし、自信を持っているし。あいつらもいつか疲れてきて、打たれる時もくるかもしれないけど、前半戦それだけやってきたというものもあるだろうし。そこにファームの奴が来て抑えられるだけの、シマと守屋に安心させないような中継ぎも出てきて欲しい。イキのいい奴があがってきたら強くなるし、おもしろい」

 ―西投手はイニングをさらに伸ばす?

 「阪神に自分がいなかったらどうだったのか? と思わせられるように。たとえば、180イニング投げたら、この180を誰が埋めたのか?と思わせたい。勝ち星はおまけ。そこは巨人の菅野さんともよく話をしていて、よく言っているのは“勝ちを気にしない。自分の仕事をまっとうしたら、次に切り替えて野球するだけ”って。ほんまにそうやったし、それを信じてやってきたここ3、4年間でした。ほんとうにいい人に出会えて、いいアドバイスをもらって(野球観は)自分の分岐点でした。すごく変わった。あの人がいなかったら、まだ勝ちを追い求めて夏場に苦しくなって、勝てなくて…。抹消だったり、追い込みすぎてケガをしたり。常に冷静に保てて同じ練習ができて調整ができています。だから、イニングを食う。ただそれだけ。ケガしないのが一番。野手は2000本安打とか何試合連続出場とか、ああいう時にすごさが際立つけど、ピッチャーやったらイニング数かと思うのです。西が10勝した時や3年連続2桁勝利とか、見てほしいのはそこじゃない。ケガをせずにずっと投げていることなんです」
 
 (※1)0―0の4回2死無走者からバティスタの打球を一塁のマルテが捕球できず(記録は右前打)先制点のきっかけになると、1点リードの8回1死一塁から野間のゴロを弾いて(記録は強襲安打)ピンチを拡大し、その後に逆転を許した。

 (※2)2―3の9回から島本が西の後を受け登板。先頭の会沢に中前打されるなど2死二塁で降板すると救援した守屋は4安打1四球で1死も奪えず2人で計6失点した。

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2019年6月29日のニュース