【内田雅也の追球】どん底での「感謝」――貯金使い果たした阪神、好転への考え方

[ 2019年6月21日 08:00 ]

交流戦   阪神2-3楽天 ( 2019年6月20日    甲子園 )

8回、無死一、三塁、近本の三塁ゴロで生還出来なかった三走・木浪が江越と交代(撮影・成瀬 徹)
Photo By スポニチ

 痛恨だった阪神・木浪聖也の拙い走塁を問い詰める気はない。試合中、代走を出されて下がったベンチで監督・矢野燿大に説諭されていた。

 1点を追う8回裏無死一、三塁で三塁走者だった。近本光司の高いバウンドの三ゴロで本塁突入をためらい、同点生還を逃したのだった。

 「還ってほしかったですね」と、すぐ隣の三塁コーチボックスにいた内野守備走塁コーチ・藤本敦士は言った。無死一、三塁で一塁走者・植田海の二盗は「グリーンライト」。三塁走者への事前の指示は「ゴロ・ストップ」が定石だが、それも打球による。
 「確実に還れる打球でしたので。指示はしていたのですが……」。藤本の声は聞こえたはずだが、木浪はちゅうちょし、そしてあきらめた。

 「指示はしていても行動に移せなかったのは僕たちの責任でもあります」。責任と敗戦の痛みを分け合った。

 「超積極的」をテーマの一つに掲げる矢野としては消極姿勢が残念でならなかったろう。

 キャンプ中にも書いたが、積極走塁の考え方は坂本龍馬が手本となる。司馬遼太郎の『竜馬がゆく』(文春文庫)にある。「男なら、たとえ溝の中でも前のめりに死ね」。前を向いての憤死なら、いくらか良かった。

 前夜(19日)、回の先頭打者に2ストライクから四球を与えた守屋功輝は「慎重になり過ぎた」と話していた。この夜(20日)の木浪も慎重に過ぎた。どうもチーム内に積極性が失われているのが気になる。

 同じ若手でも、この夜先発した高橋遥人の攻撃的で前向きな姿勢をならいたい。浅村栄斗、ブラッシュの3、4番をはじめ、強打者相手にひるまずに向かっていった。

 さらに5回表は一ゴロ失策(原口文仁後逸)、中飛失策(近本落球)と連続失策で無死一、二塁を背負わされ、2失点した。不運を嘆きたくなるなか、高橋は同点で踏ん張った。表情一つ変えなかったのが頼もしい。

 <困難に出あったとき「ありがたい。この程度ですんで良かった」と感謝すると、その瞬間から人生は好転する>と、思想家・中村天風が語っている。月刊『致知』(致知出版社)にあった。

 天風を「人生の師」と仰ぐ名将・広岡達朗(元ヤクルト、西武監督)は<自分の人生を変えた教え>として「自分の現状は自分の考え方がつくっている」をあげている。著書『広岡イズム』(ワニブックス)にある。<それがわからないと、信念はかたまらない>。

 矢野が愛読するアルフレッド・アドラーの教えと似ている。  1分けをはさみ、今季初の6連敗。うち5試合が逆転負けである。リードを奪った後、気持ちが守りに入っているのだろうか。疲れる競り負けが続き、チーム状態はどん底に近い。

 それでも「まだ5割ある、ありがたい」と思えれば、好転の時はやってくる。=敬称略= (編集委員)

続きを表示

2019年6月21日のニュース