野球という仕事 ジェイソン・スタンリッジは日本に育たない

[ 2017年5月3日 09:30 ]

ロッテのスタンリッジ
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 【君島圭介のスポーツと人間】ロッテのジェイソン・スタンリッジは高校の花形フットボール選手だったという。ポジションはクオーターバック。米アラバマ州の強豪・オーバーン大学から奨学金のオファーを受けたというから実力は相当なものだ。

 進学しなかったのは投手としてタンパベイ・デビルレイズ(現レイズ)からドラフト1巡目(全体31位)で指名を受けたから。

 「MLBが1巡目の指名だったから野球を選んだ。もし2巡目だったら大学に行っていたよ」

 そうなっていたらスタンリッジの才能はNFLのものだった。いや、大学では野球も続けて両方のリーグから誘われていたかもしれない。野球は春から秋、フットボールは秋から春とシーズンが分かれている米国では珍しいことではない。

 MLBとNFLの両リーグでプレーした選手は過去67人。なかでも有名なのはボー・ジャクソンだろう。MLBでは俊足好打の外野手として通算8年で598安打141本塁打、ランニングバックとして活躍したNFLでは通算4年で2782ヤードを獲得している。両リーグのオールスターゲームに出場した唯一のアスリートでもある。ちなみに彼はオーバーン大の出身だ。

 他にもボクシングの4階級世界王者であるロイ・ジョーンズ・ジュニアはバスケットボールの独立リーグでプレー。バスケの神様マイケル・ジョーダンが一時野球に転向したのも有名だ。それでも投手とクオーターバックの「二刀流」は別格。スタンリッジは「投げるのが好きだったから」と軽く言ってのけるが、この2つのポジションは米国のスポーツ少年なら誰もが憧れる。

 「記憶にないが5歳くらいから始めたはずだ。野球とフットボールのどっちが先か。たぶん同時じゃないかな」

 花形であるだけに過酷。プロレベルでの両立は難しい。スタンリッジはフットボールを断念したが後悔はしていない。

 「野球を選んで正解さ。この年齢(38歳)まで現役でいられる。クオーターバックは金は稼げるがケガが多く、選手寿命が短い。ブレイディはスペシャルだ」

 今年1月に39歳で歴代クオーターバック最多5度目のスーパーボウル制覇を達成したペイトリオッツのトム・ブレイディを別格としながらも、ちょっとうらやましそうでもある。

 甲子園に出場するような日本の高校球児が同時に他競技で活躍することはない。身体能力の違いというより、日本の偏狭なスポーツ環境のせいだろう。

 スタンリッジは野球大好きな8歳の息子にテニススクールを体験させたという。「僕の個人的な見解だけど、高校生くらいまでは多くのスポーツを経験した方が、より素晴らしいアスリートになると思う。体の使い方が違うし、いろんなスキルが身につくからね」。とくに球技に関して日本にはボー・ジャクソンはおろか、スタンリッジに比肩するアスリートもいないのが現実だ。 (専門委員)

 ◆君島 圭介(きみしま・けいすけ)1968年6月29日、福島県生まれ。東京五輪男子マラソン銅メダリストの円谷幸吉は高校の大先輩。学生時代からスポーツ紙で原稿運びのアルバイトを始め、スポーツ報道との関わりは四半世紀を超える。現在はプロ野球遊軍記者。サッカー、ボクシング、マリンスポーツなど広い取材経験が宝。

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