【野球のツボ】ダルビッシュと繰り広げた“駆け引き”の応酬

[ 2013年5月9日 11:08 ]

高代氏が中日の三塁ベースコーチ時代、日本ハムのダルビッシュとはさまざまな駆け引きを繰り広げた

 ゴールデンウイークが終わっても、まだ今季黒星のない投手がいる。WBCにも参加した楽天・田中や好調をキープしている阪神のメッセンジャーなど、どれもチームにとって頼りになる存在だ。

 「どうしたら、いい投手を攻略できるのか」という質問をよく聞かれる。ノッている投手を攻略するには、まず立ち上がりがポイント。リズムに乗る前の初回にチャンスは一番ある。そこで糸口をつかめないと、相手を気持ちよくスイスイと投げさせることにつながってくる。どんな投手でも、立ち上がりは不安を抱えているもの。付け入るなら、まずそこだ。

 好調な投手に対しては、打者との1対1の勝負では、打ち崩すことは容易ではない。打者任せだけでなく、塁に出ている走者、そしてベースコーチ、もちろんベンチもそれぞれの役目を全うして、攻略に全精力を注ぐことが求められる。駆け引き、揺さぶりなど、投手の集中力をいかに乱し、自分たちのペースに引き込むか。それが好投手を攻略するポイントだ。

 その意味でも思い出すのは、今はレンジャーズで活躍するダルビッシュだ。球は速いし、変化球もコントロールされている。日米を通しても、最も攻略しにくい投手と言って、間違いないだろう。しかも、彼はクレバー。相手打者が変化球を待っていると察知すると、そこでストレートではなく、ボールになる変化球を投げてくる。打者を簡単に打ち取れるはずだ。

 そのダルビッシュに凄い形相でにらまれた経験がある。2007年の日本シリーズでの出来事だった。日本ハムと中日の対戦。マウンド上のダルビッシュは、三塁ベースコーチの私と目が合うと、途端に顔が険しくなった。クレバーだからこそ、私の視線が気になったのだと思う。

 クセが分かっていたかどうかは企業秘密だが、相手の注意をそこまで引き付けることが出来れば、勝敗は別にして駆け引き段階では勝ったと言えるだろう。私もわざと、首を振ったり、手を動かしてみたり、ダルビッシュの目を向けさせるようなアクションで応酬したものだ。相手の嫌がることを狙って仕掛け、プレッシャーをかけ続ける。こうした心理戦もプロ野球の醍醐味。緊張感あふれるゲームの裏側は、押したり引いたりの駆け引きの火花が散っているのだ。(前WBC日本代表コーチ)

 ◆高代 延博(たかしろ・のぶひろ)1954年5月27日生まれ、58歳。奈良県出身。智弁学園-法大-東芝-日本ハム-広島。引退後は広島、日本ハム、ロッテ、中日、韓国ハンファ、オリックスでコーチ。WBCでは09年、13年と2大会連続でコーチを務めた。

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2013年5月9日のニュース