ジョージア魂賞に山本昌 老獪な投球で打者を手玉に取る“長寿社会の星” 

[ 2012年5月22日 10:45 ]

ジョージア魂賞を受賞した中日・山本昌

 勝利に最も貢献したプレーをした選手を表彰する「ジョージア魂賞」の今シーズン第2回(4月下期)受賞者は中日の山本昌に決まった。4月15日の阪神戦でプロ野球最年長先発勝利記録を樹立、開幕からローテーションを守り首位中日に欠かせない存在となっている。スポーツライターの二宮清純氏が書く山本昌のピッチングの神髄とは。

 中日・山本昌がプロ野球に身を投じた1984年の日本人男性の平均寿命は74.54歳、女性は80.18歳だった。それから四半世紀以上が経過した現在、男性は79.64歳、女性は86.39歳にまで延びた。

 平均寿命が延びれば、高齢者の活躍の場はもっと広がってよさそうだ。公務員の定年(一般職事務系で60歳)制度だって、このへんで見直してもいいかもしれない。

 まさに山本昌の活躍は“長寿社会の星”と呼ぶにふさわしい。さる4月15日の阪神戦で、46歳8カ月4日というプロ野球最年長先発勝利記録を樹立した。浜崎真二が保持していた記録を4日ばかり上回った。

 彼と知り合って随分たつが、何より感心するのが人並み外れた好奇心と探求心である。本職の野球以外にもラジコン、クワガタのブリーダーと、彼は興味の幅をどんどん広げていく。貪欲なまでの向上心には、ほとほと頭が下がる。

 たとえばラジコン。彼は自著「130キロ快速球」(ベースボール・マガジン社新書)で、こう述べている。<僕よりうまい人はたくさんいる。少し観察してみた。そして秘訣(ひけつ)を知った。実に詳細な「ラジコンノート」をつけているのだ。車高が何ミリのときにどうだった、バネの強さと結果、リバウンドはどう、気温や天候はどうだった…>。これに気づくだけなら趣味の域を出ない。しかし、彼が凡百の趣味人と違うのは、ここからだ。ラジコンで得た知見を野球にフィードバックさせたのだ。<そこからだった。投球というものに対するメカニック的なことを勉強し始めた。つくづく思う。あのときに懸命にデータを書き込むラジコンの達人たちをバカにしていたら、いまの僕はなかったんじゃないか…>

 150キロどころか、ストレートは140キロにも満たない。バッタバッタと三振を取りまくる変化球があるわけでもない。アメリカでマイナーリーガーから伝授されたシンカーや緩いカーブを軸にした老獪(かい)なピッチングで打者を手玉に取る。その鮮やかな手つきは、さながらマジシャンを想起させる。尽きそうで尽きない手品のタネ。変幻自在のマジックショーは果たして、どんなフィナーレを迎えるのか。

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2012年5月22日のニュース