転倒の金井大旺に送られた拍手 「温かみがありました」

[ 2021年8月4日 12:43 ]

東京五輪 陸上 ( 2021年8月4日    国立競技場 )

準決勝での金井の走り(AP)
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 男子110メートル障害準決勝で金井大旺(25=ミズノ)は転倒して2組最下位の8着に終わり、この種目日本勢初の決勝を逃した。今大会を区切りとし、歯科医師になるために大学へ進学をすると公言していた。懸けていた舞台で力を出し切れなかった。その悔しさが、取材エリアで表れた。普段は丁寧に、順序よく話す男の口から言葉が出てこなかった。

 第一声で「レースから少し時間が経って―」とマイクに向かったあと、沈黙が続いた。「すみません」。「んー」。下を向き、前を向き、言葉をつなごうとするが、頭と心の中に、様々な感情が入り交じっているようだった。沈黙は1分。心を整理し、レースを振り返った。

 8台目を越えた後、9台目の直前で前のめりに転倒した。原因は、右レーンのジャマイカ選手の腕と腕が接触したことで「腕を(後方に)持っていかれた」と、バランスを崩した。しかし、「強い選手なら耐えきれる。僕は耐えられなかった。それも実力不足」と現実を受け止めた。

 転倒したあと、膝、両手のひらの痛みと、夢が消えた胸の痛みを抱えながら、金井は起き上がった。走り始めた。

 「真っ白で考えることができなかった」

 もう勝負はついていた。ほかの選手は、ゴールを駆け抜け、それぞれが結果を受け止めていた。祭りの後のような静けさの中を、1人、ゴールを目指した。跳べなかった2台をジャンプした。無観客の場内から関係者の拍手があちらこちらから鳴った。大きく響いた。金井の耳に届いた。「無観客の中で、温かみがありました」。初めての五輪。日本勢57年ぶりに進んだ準決勝で残したタイムは26秒11。自己記録の13秒16から倍以上かかったが、アスリートとしての姿勢を示した。

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