【陸上】船木和喜 走り幅跳び・橋岡の踏み切りに日本選手の戦い方のヒント

[ 2021年8月4日 05:30 ]

男子走り幅跳び、6位入賞の橋岡優輝(撮影・小海途 良幹)
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 【メダリストは見た 船木和喜】男子走り幅跳びは橋岡優輝(22=富士通)が日本選手37年ぶりの決勝進出で、6位入賞を果たした。スキージャンプの船木和喜(46=FIT)はその競技特性を分析しながら、成長の原動力となった国内の熾烈(しれつ)な争いにも注目。また、TOKYOの舞台に立つ若きオリンピアンたちにエールも送った。

こうみえて僕、中学時代に陸上部の助っ人で中体連の大会に出場したことがあるんです。種目は短距離と走り幅跳びでした。今回、予選から興味深く、男子の走り幅跳びを観戦させていただきました。決勝の橋岡選手、惜しかったですね。自己ベストならメダルにも手が届いていたんですね。大きな舞台でベストを出すことの難しさを改めて感じました。でも、最後の跳躍でその日のベストを出せたという経験は、大きかったんじゃないですか。次につながる試合になったと思います。

 助走、踏み切り、空中姿勢、そして着地。競技中の4つの局面を言葉で切り取ってみると、スキージャンプと走り幅跳びに共通項は多いんです。でも、内容は驚くほど異なるものでした。まずは風。走り幅跳びはスピードの出る追い風が有利ということですが、ジャンプは空中で浮力を得られる向かい風が圧倒的に有利です。そして、ジャンプは踏み切りで少しの失敗があっても、空中姿勢でリカバリーできることがあります。でも、走り幅跳びの成否の鍵を握るのは、圧倒的に踏み切りだと感じましたね。

 踏み切りで攻め過ぎると、ラインオーバーで失格。守り過ぎると記録で大きなマイナスにもなります。この踏み切りにどれだけフォーカスできるかが、結果に直結するのではないでしょうか。この日の橋岡選手の踏み切りは本当にピタリと決まっているものが多かった。日本選手の決勝進出は37年ぶりだとか。走る、跳ぶといった筋力勝負のフェーズが多い種目の中で、体格で劣る日本選手は細かい技術を煮詰めて戦っているんだなあ、とも感じました。

 予選には3人の日本選手が出場していました。国内で高いレベルの競り合いができているということも、躍進の理由でしょうね。僕が初めて出場した長野五輪の時代、日本のジャンプチームのレベルは世界一で、国内の試合でもずっと緊張感がありました。これが僕にはプラスでした。高い緊張感が続いたことで疲れてしまうのでは?なんて声もありましたが、どこに行ってどんな試合になっても、いつもと同じように力を発揮できるベースができました。今回、複数の日本選手が決勝に進出していたら、また違う結果が出ていたかもしれませんね。

 それにしてもコロナ下の五輪、いろいろな意味で大変そうです。いつもの試合とは異なることにまで気を配らないといけないのは本当に負担だと思います。試合前のルーティン、選手によってはできないかもしれません。他の選手とコミュニケーションを取りにくかったり、歓声が聞こえなかったりで、集中力のメリハリがつけにくくなるんじゃないかな、と想像していました。ずっと集中できちゃうということは、選手によっては考えすぎたり、悩んでしまったりということもあるんじゃないでしょうか。大きな期待を集めていたバドミントンのチームが不振だった理由も、このあたりにあるかもしれませんね。

 最後に日本選手へ一言贈らせてください。背負うのは自分の競技結果だけでいいと思います。五輪開催そのものなんて、選手が背負うべきものじゃないと思うんです。その検証と責任は政治家とか国際オリンピック委員会とかに任せましょうよ。ベストを尽くして、納得できる大会にしてください。

 ◇船木 和喜(ふなき・かずよし)1975年(昭50)4月27日生まれ、北海道余市町出身の46歳。北照高ではインターハイ最高2位、国体優勝。高校卒業後、19歳の94年にW杯初出場で初優勝。98年長野五輪では、個人ラージヒル金、団体金、個人ノーマルヒル銀の大活躍。02年ソルトレークシティー五輪は出場も、メダル獲得ならず。W杯個人通算16勝は日本人歴代2位。現在も現役でフィット所属。

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