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【コラム】西部謙司

バイエルンの攻撃とアトレティコの守備

[ 2014年4月20日 05:30 ]

欧州チャンピオンズリーグ準決勝の組み合わせ
Photo By AP

 UEFAチャンピオンズリーグはベスト4が出そろい、いよいよ大詰めを迎えようとしている。戦術的にも毎年進化が見られるCLだが、今季目についたのはバイエルン・ミュンヘンのビルドアップとアトレティコ・マドリードの守備だった。

 後方でビルドアップを始める際、バイエルンはセンターバックが開き、その間にボランチが下りてくる。この動き方は、もうすっかりお馴染みなので新しくも何ともない。新しいのは、サイドバックが中央へ上がっていくこと。通常このケースではサ イドバックはタッチライン際に上がっていくが、バイエルンの場合は中央寄りへ上がることが多い。アラバやラームのようなMFとしても高い能力を持ったサイドバックがいるからだ。

 ボランチがセンターバックへ、サイドバックが攻撃的MFへ、攻撃的MFがボランチへ。バイエルンの3点移動は相手の守備対応を迷わせ、パスワークの確度を上げている。さらにCL準決勝のマンチェスター・ユナイテッド戦では、もう1つヒネリを加えていた。

 ボランチがセンターバックの間へ下りるのと、左サイドバックが中央へ上がるのはいつもどおりだったが、ボランチの位置へ下りてくるはずの攻撃的MF(ミュラー)はマンジュキッチと並ぶ2トップの位置へ上がったのだ。では、ボランチの位置はどうな ったかというと、右サイドバックで先発したラームが中央へ移動してきた。3点移動は同じだが、前線の人数を1人増やしていた。

 アトレティコ・マドリードは、強固な守備ブロックでバルセロナを完封した。フォーメーションは4-4-2。いまどき2トップのチームは少ない。ゾーンディフェンスが普及した当初は4-4-2が主流だったが、8人のブロックでは守れなくなったからだ。現在は4-2-3-1による9人ブロックが主流になっている。

 ところが、アトレティコは4-4-2で強固な守備を敷いている。2トップが下がってMFに近づき、10人でブロックを作っているからだ。普通、10人が引いてしまうと攻撃ができなくなってしまうのだが、アトレティコはそこを上手く調整している。 例えば、FWジエゴ・コスタは相手のボランチの近くまでは引いてパスが入らないようにするが、自陣側までは引かない。ボールを奪ったときには相手のボランチとセンターバックの間でパスを受けられる状態になっている。完全にFWまで引ききってしまうこともあるし、逆に全体が前に出てプレスする場合もある。相手とその瞬間の状況によって使い分けが上手く、いずれにしても10人のコンパクトさは保たれている。

 ブラジルW杯でも、バイエルンのような多様化したビルドアップと、それを阻止するアトレティコのような守備組織がしのぎを削ることになるだろう。ただし、W杯は戦術的にCLよりも遅れるので、今回はバイエルンやアトレティコほど先進的なものはたぶん出てこないと思うが。(西部謙司=スポーツライター)

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