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【コラム】西部謙司

カギを握るGM

[ 2011年12月31日 06:00 ]

西部謙司さんの最新刊『欧州サッカー「最強クラブ」伝説』(PHP文庫、本体667円)
Photo By 提供写真

 Jリーグの発展のカギになるのは何か。サガン鳥栖で監督、GMを務めた松本育夫氏によると「GMの人材育成」だという。松本氏が最初の課題として挙げたのは「財源の確保」だった。そのうえで、GMの存在が焦点になるという。

 クラブ経営というのは、洋の東西を問わず原則は意外と単純だ。まず財源、そして集めたお金をどう使うか、さらに育成。一定のお金があって、それを賢く使ってチームを強化し、育成を充実させれば、たいがい上手くいくことになっている。まずは先立つものが必要だが、お金があっても無駄使いをしていてはクラブ強化も経営も上手くいかない。そこで、サッカーがわかって経営もわかる人間、つまりGM職が必要というわけだ。

 ところが、サッカーとお金の両方がわかっている人材がなかなかいない。ずっとサッカー畑を歩んできた元選手は経営に疎く、経営のプロはサッカーがよくわからない。だから、「育成しなくてはいけない」というのが松本氏の意見なのだ。

 すでにJリーグでも契約切れの選手は自由に移籍できるようになっている。小さなクラブは、将来性のある若手とは複数年契約をして、移籍されても違約金をとれるようにしなければならない。しかも、他のチームから注目される前に才能を見抜いて契約を結ぶ必要がある。選手は自分が注目されていて、大きなクラブからオファーがもらえそうだと気がつけば、単年契約にして移籍しやすくしようと考えるかもしれないからだ。GMはいち早く選手の才能を見抜けなければならないし、クラブの予算の中で適性な年俸を弾き出して提示しなければならない。目利きに失敗すれば、チームの強化も経営も痛手をこうむることになるから重要な判断になる。これはサッカーと経営の両方の視点がなければできない仕事だ。

 Jリーグには、まだGMがいないクラブがかなりある。また、頻繁にGMが変わっているクラブもある。そういうクラブは、だいたいあまり上手くいっていない。GMの機能と重要性に気づいていないからで、つまりそもそもサッカークラブをどう運営していったらいいのかのイロハも怪しい。ピッチ上のプレーはずいぶん進歩したが、クラブ経営はそれに比べるとずいぶん立ち後れているのではないか。(西部謙司=スポーツライター)

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