×

【コラム】西部謙司

他山の石:フランスの育成問題

[ 2011年5月16日 06:00 ]

フランス代表のローラン・ブラン監督
Photo By AP

 フランス代表のローラン・ブラン監督に辞任の噂が流れた。フランス協会が育成対象に人種制限をかけようとしたのが明るみになり、すでにユース担当ディレクターは停職処分となっていた。ブラン監督も、その会議に出席していたため問題になっていたが、最終的にはお咎めなしとなったようだ。

 12、13歳の選手選考において、黒人とアラブ人の割合を30%にするという内容だった。それが人種差別と非難されたわけだが、実情は少し違う。ナショナル・トレーニングセンターの育成は定評があった。日本もそれを真似た制度を取り入れている。ところが、近年は問題点も指摘されていた。

 黒人やアラブ人には早熟系の選手が多い。ティエリ・アンリとジェローム・ロテンは、ともにナショナル・トレーニングセンターの同期生だが、12歳の2人は体の大きさが大人と子供ほど違っていた。2人ともフランス代表入りした出世頭ではあるが、黒人のアンリと白人のロテンでは12歳時の体格差が歴然だったわけだ。その年代で大人の体格を有する選手は当然目立つし、試合をすれば圧倒的な戦力になる。しかし、大人になったときにどうなるかは、当然育成年代の体格だけでは決まらない。

 フランスのサッカー関係者も、そんなことは先刻承知だ。だが、さまざまなスポーツの育成機関に予算を分配しているスポーツ省は、国際大会の成績を実績として判断する。予算を増やすには、好成績を上げる必要がある。ユース年代の大会で結果を出すには、早熟系の選手を起用するのが早道。かくして、早熟系の選手が増えすぎてしまった。それが今回の人種枠の背景にある。つまり、フランス協会は育成をフィジカルからテクニックへと舵を切ろうとして、“勇気ある決断”を下したつもりだったのだろう。

 もちろん、人種で枠を設けようとしたのは愚かだったと思う。黒人とアラブ人を制限するなどという表層ではなく、育成における評価ポイントを変えればいいだけの話だからだ。人種や体格ではなく、才能と将来性を見出していくのは育成における基本のキだろう。

 フランスの育成機関の成功は、黒人やアラブ人に門戸を開放したことにある。簡単にいえば、世界の人材資源の2大拠点である南米とアフリカのうち、アフリカを押さえた。それが成功の要因だった。だが、少々それに頼りすぎて育成の本質を見失った。

 日本の育成はいまのところ順調だ。問題点はあるが、その課題認識はかなり共有されるようになっている。なかなか一挙には解決できないが、ノックアウト戦からリーグ戦へのシフトなども徐々に行われている。かつて海外組といえば攻撃的MFばかりだったのが、いまではサイドバックやセンターバックも欧州で活躍するようになった。しかし、あれほど賞賛されたフランスの育成も曲がり角を迎えている。日本は育成の「本質」を追求して他山の石としたい。(西部謙司=スポーツライター)

続きを表示

バックナンバー

もっと見る