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【コラム】西部謙司

日本は「アジアのバルセロナ」か?

[ 2011年3月9日 06:00 ]

シュート数19対0、ボールポゼッション69%対31%。CL決勝T1回戦第2戦でアーセナルを圧倒したバルセロナ
Photo By AP

 日本代表を「アジアのバルセロナ」と評したのは、当時カタール代表監督だったブルーノ・メツである。一種のホメ殺し作戦だろう。

 UEFAチャンピオンズリーグでアーセナルをホームに迎えたバルセロナは3-1で完勝した。アーセナルのシュートはゼロ。バルセロナの失点はオウンゴールだった。第1レグを1-2で落としていたバルセロナにとっては、最後まで気の抜けない試合だったはずだ。3-1とした後も、もしアーセナルに1点奪われれば、アウェーゴールの差で敗れてしまうからだ。ベントナーが抜け出した瞬間はバルサファンの肝を冷やしたに違いない。しかし、結果的にはバルセロナの完勝だった。シュート数19対0、ボールポゼッションは69%対31%、これではアーセナルに勝ち目はない。

 「7割方ボールを支配していれば、8割ぐらいの試合には勝てる」

 バルセロナのコーチングスタッフは、誰もがこう言う。これはトップから小学生のチームにまで共通するバルセロナのサッカーに対する考え方だ。逆に言えば、ボールを支配できていても2割は負けると思っているわけだ。

 アーセナル戦は、2試合ともバルセロナの意図するゲームだった。ボールをキープし、奪われたら前からプレッシャーをかける。ロングボールを蹴らせ、あるいはつなごうとするところを複数で挟み、すみやかにボールを回収する。圧倒的なボール支配からより多くのチャンスを作り、相手にはより少ないチャンスしか与えない。負けた第1レグは、いわばバルセロナにとって「2割」の負け確率が出たゲームにすぎない。

 アジアカップでの日本は、確かにバルセロナのようなパスワークをみせた時間帯もあった。ただし、その時間は限られていた。むしろ、サウジアラビア戦(5-0)以外は、どの試合も負けてもおかしくない内容だった。実力的に日本のほうが勝ちに近かったとしても、印象としていえば日本の負け確率は「2割」を大幅に上回っていた。

 日本にはまだ「こうやったらだいたい勝てる」という勝利の方程式が確立されていない。従って、「こうやったら」の部分もたまたまにしか実現できていない。決勝のオーストラリア戦では完全にオーストラリアのゲームをされてしまった。

 もちろん、そうした苦しい試合に勝ったのは大したものだ。より強力な相手に対して、日本は第1レグでバルセロナを破ったアーセナルのような戦いができるかもしれない。しかし、バルセロナの立場に立たないと、それも一時的な勝利にしかならないわけだ。(西部謙司=スポーツライター)

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