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【コラム】西部謙司

ベテラン切りと契約社会

[ 2011年1月1日 06:00 ]

 長年クラブに貢献してきたベテラン選手が、いとも簡単に「0円提示」をされる。選手をモノ扱いするようなクラブ側の態度には、ファンも怒りを感じているかもしれない。

 契約の終了した選手には、移籍金が発生しなくなった。昨年から実施されている移籍の新しいルールだ。チームの顔ともいえるベテラン選手が、まだ十分働けるというのに退団を余儀なくされている背景には、新しい移籍ルールの影響があるように思える。

 契約の切れた選手は自由に移籍ができる。それまで発生していた移籍金がかからないのだから、契約切れ選手は移籍しやすくなった。半面、クラブ側は違約金を払ってまで選手を獲得しようとはしなくなった。現在、Jリーグで違約金が発生する移籍はまれだ。

 クラブの予算が縮小して、人件費を削らなければならなくなったとする。そのとき、契約期間中の選手についてはタッチできない。外部からのオファーも皆無だから、複数年の選手は全く動かなくなる。手をつけるとすれば、契約が切れる選手だ。中でも、年俸の高いベテラン選手を退団させればコストは削れる。新入団選手や外国人選手の補強も必要だと判断すれば、その費用を捻出するには、なおさらベテラン切りに傾くわけだ。

 契約の切れる選手は、まず半年前にクラブと話し合う必要がある。クラブ側は、保持したい選手には契約更新の意思を伝えるに違いない。ここで大事なのは、口約束ではなくて書面にすること。契約を更新してしまうのがベストだろう。もし、この時点でクラブ側が契約を渋るようなら、ルールに従って新しいチームを探すことになる。有能な代理人がいれば、移籍の噂を流して契約交渉を有利に進めることもできる。

 一方で、働き盛りの主力選手でも、単年契約であるばかりにコストカットの対象にされる場合もあるそうだ。明らかに戦力ダウンになるとわかっていても、他に人件費を削る対象がいなければそうなってしまう。財政と強化のどちらを重視するかは状況にもよるけれども、年俸が高いだけでエース級がリストラ対象になるとしたら、それだけ台所が厳しいということだろう。

 現状、Jリーグでは移籍ビジネスが成立していない。ゼロ円移籍が圧倒多数を占め、キャリアアップを望む有力選手は単年契約を希望する。予算の大きいクラブは、契約切れの有力選手が流れ込んでくるので有利だが、違約金もとれない小クラブはクラブ運営の新たな戦略が必要になりそうだ。(西部謙司=スポーツライター)

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