×

【コラム】海外通信員

テベス代表落選 理由は“メッシとの相性の悪さ”&調和を乱す言動

[ 2014年5月26日 05:30 ]

地元メディアはテベスの代表落選に理解を示すが…
Photo By AP

 結局、カルロス・テベスは今回のワールドカップのメンバーに選ばれなかった。

 「選ばれない可能性が高い」ということは以前からわかっていたので、予備登録メンバーも含めた30人のリストの中にテベスが入らなかったことはサプライズでも何でもない。しかし、アルゼンチン国内では多くのファンと一部のメディアがテベスを擁護し、サベーラを批判した。

 「どの国のどのクラブに行っても活躍する実力者を代表から外すなんて!」

 「セリエAでゴールを量産してMVPに選ばれるほど好調なFWをワールドカップに連れて行かないなんて!」

 テベスを差し置いて選ばれた選手に対する「エストゥディアンテスでプレーしたことのある選手を優先するなんて」という声も少なくなかった。アレハンドロ・サベーラ代表監督が以前、エストゥディアンテスを率いて国内リーグで優勝したあと、コパ・リベルタドーレスで南米王者に輝き、クラブワールドカップの決勝で絶好調のバルセロナ相手に「負けないサッカー」を展開したことは誰もが承知の事実なのだが、当時の教え子たちを招集しながらテベスを呼ばなかったことが反感を買った。

 一時は、一部のアルゼンチンサッカー協会幹部がテベスを一押ししていて、何が何でもサベーラにテベスを招集するように忠告したという噂が飛び交い、もしかしたらサベーラがそのプレッシャーに負け、2011年のコパ・アメリカでのセルヒオ・バティスタ監督のように、直前になってテベスを招集するようなことが起きるのではないかという説もあったのだが、幸い実現しなかった。「幸い」というのは決してテベスが呼ばれなかったことに対してではなく、代表監督の決断にお役人の意見が影響することがなかったことに対して、だ。

 では、なぜ今回、テベスはワールドカップのメンバーから漏れたのか。これについてはすでに、国内の各メディアの代表番記者たちによって「テベスは他のFW陣と連動しないから」という明解な理由が挙げられている。特に、メッシとの「ピッチ内でのプレー上の相性の悪さ」は一目瞭然だ。

 有力紙ラ・ナシオンのクリスティアン・グロッソ記者は、実例を挙げながら次のように説明している。

 「06年ワールドカップではエルナン・クレスポとサビオラがレギュラーだったが、最終的にテベスがポジションを勝ち取った。07年コパ・アメリカではリオネル・メッシとクレスポが不動の2トップだったところ、クレスポが怪我を負い、3人目のFWだったはずのディエゴ・ミリートではなくテベスがプレーした。2010年ワールドカップでも、ディエゴ・マラドーナ監督はテベスを控え要員扱いしていたが、最終的にはメッシと一緒にピッチに入っていた。2011年のコパでもファンの声に押されてメンバー入りを果たした。結果、アルゼンチンはいずれの大会でもタイトルを取ることができなかった


 テベスを擁した代表が優勝したのは04年アテネ五輪だけで、同大会ではテベスが8ゴールをマークして得点王に輝いている。その後、アルゼンチン代表にはメッシが登場し、監督たちはテベスとの共存を試みたが、いずれもことごとく失敗した。

 06年ワールドカップのドイツ戦でメッシの出番がなかったのは、その前にすでにGKが交代してしまっていたという理由だけではない。当時の監督だったホセ・ペケルマンは、グループステージのオランダ戦でテベスとメッシの2トップを先発で起用した時点ですでに「このコンビでは相手ゴール前の深い位置まで到達できない」と判断していた。ペケルマン監督はドイツ戦で、同点のまま延長戦にもつれ込んでもテベスを最後の最後までピッチに残し、メッシをベンチに置き去りにした。ご存知のとおり、追加点は生まれなかった。

 かなり以前から、代表監督たちは「メッシとテベスには互換性がない」と判断しており、テベスを高く評価し、個人的にも非常に仲の良いマラドーナ監督でさえ、最初はテベスを控えに回したほどだ。代表からテベスを外すという大胆で勇気のある行動に出た最初の監督はバティスタだったが、グロッソ記者の説明にもあるとおり、周囲からのプレッシャーに負けてコパ開幕直前に招集。しかし、バティスタが新たにメッシを中心に作り始めていたチームの中でテベスの歯車は空回りし、準々決勝でPK戦の末にアルゼンチンは敗退した。PKを失敗したのは、皮肉にもテベスだった。

 「控えになることは耐えられない」と公言し、宿泊先での相部屋を拒んでプライベートルームを要求するなど、ピッチ外でのテベスの言動がチーム内の調和を乱しているという事実は全く否定できない。しかし今回、サベーラ監督がテベスを外したのは、過去8年間、どの監督も実行しなかったことをやっただけのことなのだ。

 もちろん、現時点ではまだ、「テベスよりもメッシを選んだ」判断が吉と出るか凶と出るかはわからない。6月4日と7日に行われる壮行試合でゴールが生まれなければ、スタンドのサポーターからは必ずテベスコールが起こるだろう。サベーラ監督率いるメッシのチームは、厳しい世論を背負ったままブラジルに乗り込む。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

続きを表示

バックナンバー

もっと見る