コロナ失職”した元遊園地職員の挑戦 那須のバーベキューレストラン

[ 2021年4月1日 09:30 ]

「那須高原バル」をオープンした望月旭さん(後列右)ら主要メンバー(望月さん提供)
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 新型コロナウイルスの感染拡大に苦しむ飲食業界に、あえて挑戦する元遊園地職員らの店が注目されている。

 栃木県那須町で3月20日にオープンした「那須高原バル」は、同じ那須にあるアミューズメントパークの社員4人が立ち上げたバーベキューを中心としたレストラン。同園で企画・営業などの担当だった望月旭さん(46)は「コロナ禍で、園は休業続き。これを機に別の仕事をやってみようと考えた」と転職の理由を語る。

 飲食店の苦境ばかりにスポットが当たりがちだが、人が集まり「密」が発生する遊園地やイベント会場も大打撃を受けている。2度の緊急事態宣言で長く閉園を余儀なくされ、再開後も入場者数を絞っての営業が続く。

 “コロナ失職”で新天地での出発を選んだ望月さんたちだが、なぜコロナ禍でより厳しい状況にある飲食業を選んだのか。望月さんは「厳しい厳しいとは言いますが、人間は食べなきゃ生きていけない。絶対に必要な業種。やりようによって可能性はあるはず」と逆転の発想を強調する。

 店の中心に据えたのは、密になりにくい屋外でのバーベキュー。さらに「那須エリアは大手ピザチェーンの競争が比較的激しくない地域」との分析から、ピザを含むテイクアウト需要にも応える体制や施設を整えた。

 スタッフ全員が料理のプロではない“素人集団”であることも逆手に取った。「テーマパーク内の飲食エリアでお手伝いをすることはあったけど、本格的な調理をしたことはない」と望月さん。特別な知識や技術を持たないというマイナス要素も、バーベキューなら「お客さんが自分の好みで焼けることが、楽しみの1つとなる」とプラス要素になりうる。食材の調達は、前職で手広く地元企業や店舗を回った人脈が生きた。特産の那須高原和牛など最高の素材をそろえた。

 土地と建物は、コロナ禍で閉店を選んだレストランのものが見つかり「大通りに面した最高の立地で、宣伝に多額の費用を掛けなくてすむ」というが、一方で「前のお店は、休業期間中にスタッフがちりぢりになったりで再開が難しくなったようです。建物も本当に素敵な雰囲気でオーナーさんのお店に対する愛情が伝わってくる」とぽつり。飲食業界の置かれた苦境と、前の店の関係者の無念を思い、身を引き締めている。

 那須エリアは東京に近い北関東のリゾート地として人気だが、コロナ禍で観光客は激減。那須町は3月25日、2020年の観光客が前年比27・47%減の348万872人、宿泊者は同29・09%減の123万9884人だったと発表した。いずれも東日本大震災が起きた11年を下回り、調査を始めた1991年以降で最低となった。

 緊急事態宣言は解除されたが、感染は再拡大傾向で飲食業界も苦しい状況が続く。そんな中、元遊園地職員ならではの“気付き”がピンチ脱出のきっかけにならないかと秘かに期待している。(記者コラム)

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2021年4月1日のニュース