【内田雅也の追球】野球の美点と感動の力 刺激を受けたであろう虎に、不屈の姿勢がにじみ出ていた

[ 2023年3月22日 08:00 ]

オープン戦   阪神1―2西武 ( 2023年3月21日    ベルーナドーム )

<西・神>9回1死一塁、島田が左二塁打を放つ(撮影・岸 良祐)
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 東京・水道橋の宿泊先ホテルから所沢のベルーナドームに向かう電車の車中や道中、ずっとワールド・ベースボール・クラシック(WBC)のネット中継を見ていた。球場に着いた時は5回。阪神の選手たちはグラウンドに出ていたが、監督・岡田彰布の姿がない。練習が始まってもグラウンドに出てこなかった。

 試合後に聞くと「見てたよ」と言う。ベンチ裏でテレビ中継を見ていたそうだ。そんな言葉は口にしない性分のはずなので、こちらから「感動的な試合でしたね」と問いかけると、少しうなずいて「なあ」と笑った。野球の醍醐味(だいごみ)が詰まった一戦に、岡田も見入り、感じ入っていたのである。

 日本代表監督・栗山英樹は「野球すげえなって思っていただけたらうれしい」、メキシコ監督ベンジー・ギルは「日本が決勝に進んだが、今日は野球界全体の勝利だ」と話した。全く野球の魅力が詰まっていた。

 野球の美点を語るとき、いつも思い浮かべるのはスポーツ記者出身の作家ポール・ギャリコの短編『聖バンビーノ』=『ゴールデンピープル』(王国社)所収=だ。

 戦争で父親を失った少年の枕元に、何と死んで天国にいるベーブ・ルースが現れる。少年に「野球をする男になるんだ」と説いて聞かせる。「それは、ありとあらゆるものを必要とする。体調、協調、スピード、科学、ノウハウ、それから根性。根性がないと、野球はできない」

 この日の侍ジャパンの戦いは、さらに信頼、忍耐、不屈、敬意……なども詰まっていた。

 阪神は試合前に感動し刺激を受けたことだろう。0―0で終盤を迎えた。8回裏にともに代打に連続ソロを浴びたが、9回表は食い下がった。新人・森下翔太安打の1死一塁で島田海吏が目をひく。ファウル5本で粘り、左翼線二塁打でつないだ。昨季123試合に出た島田だが、今春は出番が少なく、オープン戦は過去11打数無安打。不屈の姿勢がにじみ出ていた。最後は1点届かなかったが、野球の美点が見えたシーンだった。

 阪神担当のころ、岡田の現役時代によく原稿で「野球小僧」と書いた。野球への愛情は相当で、監督となっても変わらない。だから感動し、それが力になる。きょう22日の決勝。阪神はナイターで岡田は「朝は見るよ」と、テレビでしっかり観戦する。=敬称略=(編集委員)

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2023年3月22日のニュース