【内田雅也の追球】負けは許されない直接対決 プロとしての「一戦必勝」仕掛ける姿勢が見えた試合だった

[ 2022年7月30日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神6-0ヤクルト ( 2022年7月29日    甲子園 )

初回1死二、三塁、近本の適時打で生還してナインとうなぎポーズを決める島田(撮影・北條 貴史)
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 「闘将」西本幸雄が母校、桐蔭(旧制・和歌山中)の野球部員を前に「オレが監督だったら、おまえたちを甲子園に連れていってやるのになあ」と語りかけたことがる。1989年2月、後輩たちが阪神・安芸キャンプを見学に来た時だった。「10日間、いや1週間でいいから、練習をみてやりたい」。当時はプロ・アマ規定が厳格で指導はならなかった。

 大毎(現ロッテ)、阪急(現オリックス)、近鉄3球団で8度優勝に導いた名将も甲子園の魅力に取りつかれていた。和歌山中時代は県予選で敗れ、甲子園出場経験はなかった。

 連日、高校野球地方大会が行われている。ここ何日か、炎天下の地方球場に足を運んだ。この日は紀三井寺で西本母校の桐蔭が智弁和歌山に敗れた決勝をみてきた。

 「負けたら終わり」の壮大なトーナメント戦を戦う高校球児たちは、ひたむきで必死である。

 プロ野球は長いシーズンを戦うリーグ戦である。「プロは負けても明日がある」とヤクルト監督時代の古田敦也に聞いたことがある。自然と戦い方は違ってくる。

 ただし、今の阪神には高校野球の「一戦必勝」が必要である。球宴前最終戦で勝率を5割に戻し迎えた球宴明け初戦。監督・矢野燿大は「ここから本当のスタート」と語っていた。相手は首位独走のヤクルトで「2勝1敗じゃ、やっぱりちょっと乗っていきにくい」。11ゲーム差2位(28日現在)で、本気で逆転優勝を狙うならば、直接対決で全勝したい。負けは許されない覚悟がいる。

 送りバントなど手堅い作戦をとりたくなるが、1回裏、無死一塁でバスターエンドラン(ファウル)に、重盗と果敢に走った。3回裏には近本光司が二盗(憤死)、7回裏にも北條史也がバスターで左前打を放った。

 果敢に走り、仕掛ける姿勢が際だっていた。「負けられない」といった高校球児的悲愴(ひそう)感ではなく、「勝ちにいく」プラス思考が見えた。これがプロらしい。

 侍ジャパン(日本代表)監督の栗山英樹は「プロでも、高校野球のように“負けたら終わり”の姿勢で戦えるはずだ」と日本ハム監督時代に語っている。阪神の、プロとしての一戦必勝姿勢が見えた快勝である。=敬称略=(編集委員)

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2022年7月30日のニュース