岡崎真氏 羽生結弦、不可抗力だったサルコー失敗 跳んだというより「放り出された」感覚か

[ 2022年2月8日 18:20 ]

北京五輪第5日 フィギュアスケート男子SP ( 2022年2月8日    首都体育館 )

<北京五輪・フィギュアスケート>男子SP、ジャンプを失敗した場所の氷を触る羽生結弦(撮影・小海途 良幹)
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 王者・羽生にまさかのアクシデントが発生したショートプログラム。冒頭の4回転が1回転となってしまった痛恨のサルコーは、いったい何が原因だったのか?スポニチ本紙評論家を務める国際スケート連盟(ISU)テクニカルスペシャリストでプロコーチの岡崎真氏が分析した。

 好事魔多し、ということか。実は朝の公式練習で、羽生はフリーで投入予定のクワッドアクセル(4回転半=4A)を練習していた。普通の選手は、その後行うSPに影響が出ないようにフリーの練習は避け、SPの内容に集中する。だが、羽生はメインリンクでの4Aの感触を確かめたかったのだろう。そして、それほどSPに絶対の自信を持っていたのだと思う。

 冒頭のサルコーの失敗は、羽生自身の言葉にもあったが、氷上に開いた穴の影響だ。サルコーはブレード系ジャンプと分類され、トー(つま先)を突いては踏み切らない。だが、最後はトーピック(スケート靴のブレードの先端のギザギザ部分)を氷上に引っかけて踏み切る。失敗のシーンは、踏み込んでから踏み切るまでのピンポイントでブレードが穴にとられたように見えた。これによって踏み切る動作そのものができず、自分で跳んだというよりブレードが引っかかって空中に「放り出された」という感覚だったのではないか。

 リンクにいくつも穴が開いてしまうこと自体は珍しいことではない。特に、男子は4回転時代。トーを突く動作そのものが力強くなっている。製氷では補修も行われる。だが、直前の6分間練習に加え、羽生の前にも2人が演技しており、補修された穴近くに誰かがトーを突けば穴が拡大するケースもある。

 羽生自身も穴の存在を認識していたようだが、選手にとってコースを替えてジャンプを跳ぶというのは失敗のリスクを高める行為だ。実際、60メートル×30メートルのリンクで、踏み切るところにピンポイントで穴があるというのは天文学的な確率であり、不可抗力と言える。

 男子SPでは単独ジャンプは3回転以上というルールがあり、無得点となったのは痛恨だ。実際、鍵山の4回転サルコーは約14点あった。さらに、本人が「ふわふわした」と語ったように動揺からか演技点も伸びておらず、4回転サルコーさえ決まっていればチェンと同等の得点が出たのではないかとみる。一方で、これで3連覇という重圧を考えずに、4Aという難題に全身全霊を傾けられるとも考えられる。成功の先にあるものを考えず、王者らしい意地をみせてほしい。(ISUテクニカルスペシャリスト、プロコーチ)

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2022年2月8日のニュース