自転車トラック種目代表 大柄選手に「賢く勝つ」全日本製高級車の“最高傑作”

[ 2021年1月20日 06:30 ]

2020+1 DREAMS 東京五輪まで約半年

短距離用バイク「PRZ」(ブリヂストンサイクル提供)
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 【THE WEAPON】国産車で、黄金ロードを駆け抜ける。自転車トラック種目の日本代表が東京五輪で使用するバイクはタイヤメーカー「ブリヂストン」、自転車メーカー「ブリヂストンサイクル」、日本自転車連盟が総力を結集した傑作。東京五輪は19年末までに市販された機材での出場が義務付けられており、短距離用バイク「PRZ」は530万円。メード・イン・ジャパンの超高級車で、メダルラッシュを狙う。

 「日本の選手が日本の機材を使い、日本の五輪でメダルを」――。17年、日本自転車競技連盟からの共同開発の提案で、一大プロジェクトが動きだした。ブリヂストンサイクル設計開発部の浜田和優さん(31)は「メダルを獲る強い選手はみんな同じ海外メーカーを使っていた。そこに挑みにいくのか…と。かなり高い壁だった」と回顧する。ブリヂストンはタイヤ開発で培った独自の解析技術があり、ブリヂストンサイクルは埼玉・上尾工場に「カーボンラボ」という競技用自転車の素材として多く使われるカーボンの研究施設を持っていた。2社の強みを融合させる形で開発チームが立ち上がった。

 テストライダーによる計測や言葉などを基に、コンピューター上で理想の形状、素材を独自解析。その結果を基にカーボンラボでフレームやハンドルなどのプロトタイプ(試作品)を製作。一般的な工程では形になるまで数カ月かかるような製品が、カーボンラボでは素材をよく知る開発者がカーボン成形用の“圧力釜”オートクレーブ装置など自社の設備を使い製作を行うため、最短2~3週間で形にできる。これによりハイペースで試作と試乗のサイクルを回すことができた。

 自転車は軽すぎてもパワーを受け止められず、逆に重すぎてもロスになる。“人馬一体”の黄金比を求める作業は、困難を極めた。短距離男子は最大時速80キロ。一般的なロードバイクの2倍の耐性を持つフレームも、開発当初はトップスピードでは予想を超える変形があった。「これでは世界一になれない」とのフィードバックも受けた。ブリヂストン上席技術主幹の内田和男さん(45)は「技術は言いたくても言えませんが、大柄な欧州選手に比べて賢く勝つ日本選手をどう勝たせるかに絞った」と語る。

 18年W杯から技術者も同行しながら改良を重ね、19年12月にバイクが完成。技術者たちは「本番で自転車にまたがる時“これで勝つぞ”と思ってもらえたらうれしい」と口をそろえる。代表勢は技術大国のプライドも背負い、夢舞台のスタートラインに立つ。(大和 弘明)

 ≪「過去最強」の呼び声高い新田、脇本ら五輪内定6人≫東京五輪内定のトラック代表6人は過去最強との呼び声高い。男子ケイリンでは世界選手権の19年大会で新田祐大(34)、20年大会で脇本雄太(31=ともに日本競輪選手会)がいずれも銀メダルを獲得。4種目の合計点で競う中距離のオムニアムでは20年世界選手権で梶原悠未(23=筑波大大学院)が日本女子初の頂点に立った。男子オムニアムでアジア選手権3連覇中の橋本英也(27=日本競輪選手会)など全種目でメダルが期待できる。トラック種目の中野浩一強化委員長は「日本の自転車で日本の選手が日本で金メダルを獲るという目標に向かう」と話している。

 ▽東京五輪での国産アイテム カヌー・スラローム男子カヤック代表の足立和也はレーシングカーの開発・設計を手がける静岡県御殿場市の「ムーンクラフト」に艇の製造を依頼し、使用している。卓球女子代表の伊藤美誠は東京都千代田区のメーカー「ニッタク」が開発したラケットを長年愛用。バドミントン女子シングルスで出場確実の奥原希望は用具メーカーの「ミズノ」とラケットを共同開発。岐阜の養老工場で職人が手作りしている。

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