コロナ禍でも前に進む意識示した 東海大ラグビー部の「モチベーション上がる」アイデア

[ 2020年10月7日 09:15 ]

<慶大・筑波大>ソーシャルディスタンスを取ったバックスタンドのファンに見守られながら、開幕試合を戦う慶大(左側)と筑波大のフィフティーン
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 入場も、ウィズコロナの時代に沿ったものなのか。10月4日の関東大学ラグビー開幕試合。入場曲が掛かると、まずブルーのジャージーの筑波大フィフティーンだけが、列を成して秩父宮のピッチに現れた。これまでのように、スタンドから部員たちの野太い声援が飛ぶこともない。だが緑のじゅうたんと表現するに値するピッチは、久しぶりに心をすがすがしくしてくれた。球春到来。そんな表現がぴったりくる情景だった。

 各大学とも大なり小なりの活動制限を受けて開幕を迎えた。春の公式戦は中止となり、夏合宿や練習試合すらできずに開幕を迎えた大学もある。開幕前に取材した慶大や帝京大、東海大では、9月下旬の時点で、いまだ全部員がそろっていないという状況だった。緊急事態宣言の前後でいったん部を解散し、再集合に当たっては保護者の同意書を求めた部がほとんど。中にはわが子を案じ、親が同意しないケースもあるという。現状では、致し方ないことだろう。

 それでも公式戦が始まった各大学の1軍メンバーはまだいい。本年度は2軍以下の公式戦であるジュニア選手権が中止となり、3軍、4軍クラスの練習試合は「ほとんど組めない」と、どの大学の監督も口をそろえる。部員が優に100人を超える大学も多い中、わずか30人前後のメンバーだけが実戦を積み、中には真剣勝負の場を得られないまま、シーズンを終える選手も出てくる恐れがある。

 こうした状況を打破しようと、東海大の木村季由(ひでゆき)監督が出したアイデアが面白い。同部の部員は150人以上。例年、公式戦のメンバー入りを争うのが45人程度で、実際に試合に出場できるのは30人程度だという。そこで残りの部員を縦割りで4チームに分け、部内マッチを行う計画を立てているという。4チームは普段の練習からおのおので実施し、最終戦を来年1月1日にYouTubeで配信する企画も検討している。「何をやっているか分からないと感じる子(部員)も出てくる。今年1年、試合がない子もいる。少しでもモチベーションを上がる企画を考えている」と木村監督。大所帯ゆえの悩みを、大所帯のメリットで解決する。グッドアイデアと思う。

 3月以降、さまざまなスポーツがコロナ禍により中止に追い込まれた。特に高校生以下の各競技各大会は壊滅的状況だ。高校総体が中止となる中、夏の甲子園の開催可否が取りざたされた時期には、「なぜ野球だけが特別なのか」と一部で論争も起きた。当事者の高校球児にとっては、これほどいわれなき非難はないだろう。

 「大事なことは、ゼロか100かにしないこと」

 今月1日、スポニチフォーラムで講演した一般社団法人「スポーツを止めるな」代表理事の野沢武史氏が語った言葉だ。非常事態の中、全ての競技が足並みをそろえようとすれば、どうしても「ゼロ」になってしまう。総体も中止なのだから、甲子園も中止にしようでは、この先も学生スポーツは前に進めない。そうした風潮を危惧する野沢氏の言葉は、胸にすとんと落ちた。

 ラグビー界も9月に高校の花園予選、今月から大学ラグビーが始まった一方で、やむなく中止に追い込まれた大会は少なくない。関東大学ラグビーも対抗戦Bグループ、リーグ戦2部は例年と方式を変えて11月開幕を目指しているが、リーグ戦3部以下は不透明な状況だという。今後、どこか一つカテゴリーが中止となれば、「どうして?」との声は少なからず出る。それでも今は、できることから前に進めるべき。そして東海大のようなアイデアで、一歩でも二歩でも前に進むべきだろう。

 話しは戻って10月4日。どの大学の監督や主将も、開幕を迎えられたことに感謝した。その言葉の数々には、試合に出られないメンバーのみならず、いまだ停滞気味の世の中で、思いっきりラグビーができる喜びと感謝の思いが詰まっていた。(記者コラム・阿部 令)

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2020年10月7日のニュース