全英OP予選落ちも…現状維持より進化を選んだ“プロ2年目”渋野、長いスパンで見守っていきたい

[ 2020年8月22日 05:30 ]

 第2ラウンド、ティーショットを放つ渋野日向子(R&A提供)
Photo By ゲッティ=共同

 2019年8月4日にAIG全英女子オープンで初出場初優勝を飾った渋野日向子(21=サントリー)。“スマイリングシンデレラ”と呼ばれ、世界を驚かせたメジャー制覇から1年が経った。2020年大会は通算12オーバーの105位で、カットラインに3打及ばす予選落ち。周囲からの連覇への期待を一身に背負い、それに応えようと懸命に戦い抜いた2日間だった。

 昨年の会場はイングラウンドのロンドン北西部に位置する林間コースのウォーバーンGC。今大会会場は、スコットランド南西部に位置するリンクスのロイヤルトルーンGCが舞台だった。同じ英国でも、全く違うコース。日本では経験できない硬い地面、粘りのあるブッシュに不規則に吹く重い海風が加わる。実際に日本人女子選手が、英国のリンクスでツアー優勝を飾った例はない。

 英国での日本人のツアー勝利は過去3度。1976年にサニングデールGCでのコルゲート欧州女子オープンを制した樋口久子、1984年のメジャー昇格前の全英女子オープンをウォバーンGC制した岡本綾子、そして昨年の渋野がいる。いずれも舞台はイングランド内陸部の林間コースだった。リンクスは経験が物を言う、と言われる。渋野は本場のリンクス挑戦は今回が初めて。それほどに勝つことがハードルの高い挑戦であることを承知の上で、臨んだ2度目の全英だった。

 渋野は前週から、試合後には嫌な顔ひとつせずに毎日オンラインによる取材に応じてくれた。最後の質問に答え終えるまで、席を立とうとしなかった。それは報道陣の先に、日本から応援してくれているファンがいることを分かっているから。スコットランド・オープンでの予選落ちした14日(日本時間15日)のこと。「あれだけたたいてみんなどう思うのかなって、思ってたんですけど。SNSを見ると、それでもやっぱり応援してくれる。ありがたいなって。今日もそれを思いながらずっと回ってたんですけど…。情けなくて申し訳ないです」と口を真一文字に結んだ。

 さらに会見を終えた渋野は、画面の下部に表示された時間に目をやった。「あ、もう5時前」とつぶやいた。現地時間ではなく、日本時間の午前5時を指す。時差の8時間を計算し、早朝に会見に出ている報道陣までもを気遣ってくれた。予選落ちという悔しい結果で、大会を終えた直後のできごと。そんな人柄が、多くの人から応援される所以だろう。

 オフにクラブのシャフトを変更。コロナ禍で試合がない空白期間を利用して、スイングフォームに改良を加えた。新たな取り組みに関して、さまざまな声が上がっていることは渋野自身も知っている。渡英前に「今やってきてることは、色んな意見があるかも知れないですけど、私の中では間違ってないと思うので」と話していた。確かに結果としては、今季は3試合連続の予選落ち。プロフェッショナルとして、結果を求められるのは当然のことでもある。ただ、と思う。青木翔コーチとともに見据えるのは米ツアーでの活躍、そして夢に掲げるグランドスラムだ。そのために、現状維持ではなく進化を選んだ。今のままでいいと慢心していない、何よりの証拠でもある。

 プロ本格参戦1年目でいきなりメジャーを制し、日本でも4勝を挙げた。その実績に忘れてしまいそうになるのだが、渋野はメジャー覇者でもあるが、同時にまだプロ本格参戦2年目の21歳でもある。今年1年でプロ人生が終わる訳じゃない。今後も10年、20年とプロとして戦っていく。日本のゴルフ界の宝。もっと長いスパンで見守っていきたいと、強く思った。(記者コラム ゴルフ担当・中村 文香)

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