総合馬術・田中利幸 2倍速で急成長 ウマが合う新相棒「タルマダルー」と運命の出会い

[ 2020年6月23日 05:30 ]

2020 THE PERSON キーパーソンに聞く

タルマダルーとクロスカントリーに出場した田中
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 総合馬術で12年ロンドン五輪代表の田中利幸(35=乗馬ククレイン)は新たなパートナーとともに東京五輪代表入りと団体でのメダル獲得を目指している。五輪で苦汁をなめてきた男が選んだ相棒の「タルマダルー」は購入当初、クロスカントリーの障害物を避けてしまうほどレベルの低い馬だった。そこからわずか3年で世界のトップと戦えるまでに成長した。

 15年秋だった。失意の底に沈んでいた田中はフランスにいた。

 11年から英国を拠点とし、27歳で初出場した12年のロンドン五輪は個人48位、団体12位。「訳も分からないまま終わりました」。雪辱を期して挑んだリオ五輪の選考会は落選。再び五輪の舞台に立つため、真っ先に手を付けたのがともに東京五輪を目指す新たなパートナー探しだった。

 2日間探したが、合う馬がいない。「次も合わなければ、別の国で探そう」と決めた最後の10頭目で運命の出合いを果たす。名前は「タルマダルー」。当時8歳のセン馬(去勢された牡馬)だった。

 「第一印象はモサッとしてて、見栄えが悪かった。でも乗ってみたら自分の感覚にぴったり合っていて、この馬と上を目指そうと思いました」

 人馬一体への近道は、感覚を共有できるかが重要だ。初めて乗った時に、その手応えを感じたという。

 「止まりたい時に指示を出して止まってくれるとか、自分の思いがすぐに伝わることが大きかったです」

 総合馬術では競技会のレベルは1~5の☆(スター)で示される。五輪や世界選手権などは5☆で、クロスカントリーコースは最長6840メートル、40~45個の障害物は最高120センチに上るものもあるなど難易度が高い。タルマダルーは当時は2☆相当の馬だった。

 「でも感覚は合っていたし能力もあると思った。無理やりお願いしましたね」

 どの馬も1☆の競技会からスタートする。規定の成績で2度完走すれば、次のレベルに進む。欧州のトップ選手は、多様なレベルの馬を12~15頭ほど用意するが、5☆に出場する馬は1~3頭ほど。2☆から5☆まで育てるのに平均6年かかる。4☆以上になると、高い障害物を跳び越す勇気や、難コースを走り抜く器用さも求められるが、途中でケガをし、離脱する馬も少なくない。

 「競技を重ねる中で、馬が応えてくれない時もある。それでもずっと一緒だったら“いつも乗っている人だ”って分かってくれる。自分が失敗した時も馬がかばってくれたりして、助け合っています」

 購入当初はクロスカントリーに苦手意識があった。障害物を避けた時、怒るだけでは萎縮してしまう。人にも障害物に対しても恐怖心を与えないよう褒めることも忘れず、気持ちよく障害物に向かっていけるように練習を重ねた。仲を深めつつ、粘り強く弱点と向き合った結果、購入からわずか3年で臨んだ18年世界選手権は日本人トップの15位。日本馬術史上最高の団体4位に大きく貢献した。今年3月にポルトガルで行われた国際大会(4☆)でも、欧州勢を抑え個人で優勝した。

 「世界選手権は自分にとって自信になった。上位争いもできると感じられました」

 弾みをつけて臨めるはずだった東京五輪は、来夏に延期となったが、前向きに受け止めている。タルマダルーは14歳で本番を迎える。
 「経験も積んでいて、一番ベストな状態。タルマダルーと東京に出場して、団体でメダルを獲得したい」

 新たな相棒とともに挑む2度目の五輪の目標は明確だ。

 《練習スケジュールはコロナ禍で白紙に》新型コロナウイルス感染症で4万人を超える死者を出した英国は3月23日からロックダウンとなり、現在は一部緩和されている。田中は毎日敷地内で基礎トレーニングを行うが、移動制限でクロスカントリーなどの実戦的な練習はできていない。「練習のスケジュールは白紙の状態です。ガラリと変わりました」。競技会は今月上旬にドイツ北部で開催されたが、国の越境が現状できないため田中は不参加。

 《10~16歳が最盛期》馬術の馬は馬場、障害、総合それぞれの専用馬として育てられる。競走馬は2歳からレースが始まり、4~5歳がピークだが、馬術は骨格が出来上がる4~5歳から本格的な調教が開始され、10~16歳で最盛期を迎える。競走馬が馬術に転向する場合もある。ほとんどが海外で生産され、値段は5☆相当であれば数億円を超える場合もある。

 《五輪3大会連続出場の岩谷一裕氏が期待》東京五輪の総合馬術団体では1932年ロス五輪障害飛越金メダルの西竹一と愛馬ウラヌス以来馬術日本勢89年ぶりのメダル獲得の期待がかかる。88年ソウルから五輪3大会連続出場し、現在日大馬術部コーチを務める岩谷一裕氏(56)は馬場馬術をキーポイントに挙げる。

 「今まで日本は馬場で点数を取れていなかった」。演技の美しさや正確さを争う種目で、採点には審判の主観が入りやすい。これまで欧州勢が上位を独占し、日本選手は20位以内に入れば“健闘した”と評された。しかし18年世界選手権で、日本が欧州勢に割って入り4位と躍進。その後の国際大会でも日本選手が馬場馬術で1位となるなど、風向きが変わりつつある。団体は3人で構成し、五輪3大会連続出場中の大岩義明や14年アジア大会個人銀メダルの北島隆三ら粒ぞろいだ。岩谷氏は「日本がトップライダーの仲間入りをした。馬場で5位、もしくは3位に入れば五輪でメダルのチャンスがある」と太鼓判を押した。

 ▽総合馬術 演技の正確さや美しさを競う「馬場馬術」と障害物を決められた順番に飛越して走行する「障害飛越」に「クロスカントリー」を加えた3種目を同じ人馬のペアで行い、合計減点の少なさを競う複合競技。メインのクロスカントリーでは、竹柵、生け垣、水濠(すいごう)など30~40の障害物が設置され、東京五輪では約4.5キロのハードなコースを分速570メートル(時速34.2キロ)のスピードで駆け抜ける。

 ◆田中 利幸(たなか・としゆき)1985年(昭60)2月2日生まれ、福岡市出身の35歳。福岡第一高―第一経大(現日本経大)卒。中学3年の夏、家のポストに入っていた乗馬クラブの案内をきっかけに馬術を始める。社会人になって障害飛越から総合馬術に転向。14年仁川アジア大会団体銀メダル。好きな食べ物は博多ラーメン。1メートル70、65キロ。

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