柔道女子52キロ級・阿部詩 東京五輪1年延期もブレない未来予想図「兄とアベック金」

[ 2020年4月15日 06:00 ]

本当なら東京五輪100日前…コロナ感染拡大で1年延期も前を向く!東京五輪で最高の結果を見据える阿部詩(撮影・会津 智海)
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 きょう15日は、当初 今年7月24日に開幕する予定だった東京五輪の100日前だった。新型コロナウイルスの感染拡大で五輪は1年延期となったが、スポニチでは3月、柔道女子52キロ級日本代表の阿部詩(19=日体大)へインタビュー。カウントダウンは「100日」から「464日」に変わったが、東京五輪に懸ける熱い思いを紹介する。(取材・構成 阿部 令)

「今年も綺麗(きれい)な桜が咲いてた。1年に1回必ず咲く桜はすごく強く、美しく見えました。私が想像してた2020ではなくなってしまったけど、この先に必ず輝ける未来があると信じて前だけ向いて進んでいきましょう!当たり前の日常が戻ってきますように」

 10日、自身のインスタグラムで満開に咲き誇る桜の画像とともに、決意表明とも取れるメッセージを投稿した阿部。在学中の日体大は学生に感染者が出たことで、3日に急きょ入構禁止に。トレーニングシューズ一足すら引き取れずに自宅待機を強いられているが、決して下を向くことなく、今は耐えている。

 本来なら100日後に開幕する東京五輪を、「本当に未知の世界。(16年の)リオデジャネイロ五輪を見ている時は、この場に立って出てみたいな、というくらいの気持ちだった。本当に実現できるのか?くらいだったので、今も全く実感がない」と語っていた。

 初めは男子66キロ級の兄・一二三(22=パーク24)の妹として注目され、結果的に兄より先に代表を決めた。17年2月のグランプリ(GP)デュッセルドルフでワールドツアーを史上最年少の16歳225日で制してから、わずか3年あまり。あっという間に駆け上がったからこそ、湧ききらない実感を明かしていた。

 そんな阿部が最も東京五輪を想像できた瞬間がある。昨年8月、2度目の出場となった世界選手権東京大会。「試合はあまり緊張しなかった」ものの、「決勝で投げて勝った後、凄い拍手と歓声だった。あんなの初めて。畳に礼をしている時は鳥肌が立った。こんな景色が見られるんだ、と」。正八角形をした日本武道館の中央にすえられた畳に立つ、自分一人だけに注がれる拍手喝采。本番ではさらに大きなものになることを想像し、「初めて勝って良かった」という大会になった。

 今はアスリートのみならず、世界中の人々が不自由を強いられている。そんな逆境で、思い返す金言があることも明かしていた。
 「精いっぱい苦しめ」。柔道史上唯一の五輪3連覇を達成し、所属するマネジメント会社の代表を務める野村忠宏氏(45)から、昨年1月に贈られた言葉だ。「五輪といえば野村さん。代表争いだけでもきつい戦いがあったのに、五輪に3回出て3回優勝する凄さ。4年間、必死にきついことも乗り越えて、それを3回する。どんなことをすればいいのかと思う」。代表内定でわずかにでも元3連覇王者に近づいたからこそ理解できる、その凄み。「言われた時はどういうことや?」とキョトンとしたというが、今は「実際、苦しいことしかなかった。理解できる」と語る。

 東京五輪後の未来予想図は?漠然とした問い掛けには「お兄ちゃんと2人で優勝している予定なので、一緒にいる時間が長くなると想像しています」と言い切った。五輪が延期となっても、目標は決してぶれない。来春も必ず咲き誇る桜のように阿部もまた、大輪の花を咲かせるために464日間を過ごす。

 《夢は幸せな家庭を築く》阿部が「自分の夢」として挙げたのが、「幸せな家庭を築くこと」だ。東京五輪を制せば野村氏と同様に五輪3連覇を期待する声も上がりそうだが、「とりあえず東京五輪という一つの目標を達成してから、次の目標を考えたい。24年は頑張れる年(24歳)なので頭には入れてますけど、28年はまだ分からない」ときっぱり言う。一方で「海外で生活したい。柔道が広がっていないところで教えたい。その分、苦労すると思うが、人生ではそういうことが大切かなと思うので」とも。柔道の伝道師として、世界に種をまく日を描いている。

 《52キロ級で花開くのか――男女で唯一金メダルない“空白地”》公開競技として行われた88年ソウル大会を含め、五輪過去8大会で唯一、日本女子勢が金メダルを獲得していないのが52キロ級だ。男子7階級を含めても唯一の“空白地”。一方でメダルは8大会のうち7大会で獲得し、金メダル獲得は日本の悲願とも言える。阿部自身、このことを強く意識しており、2月27日の代表内定会見では「52キロ級で初の優勝は、自分が目指していること」と語った。

 【阿部詩の歩み】
 ☆15年8月 3年連続出場の全中で初優勝
 ☆同11月 講道館杯でシニアの全国大会デビュー。2回戦で敗退
 ☆16年4月 全日本カデ(15~17歳)で初優勝
 ☆同12月 グランドスラム(GS)東京大会でシニアの国際大会デビュー。準優勝
 ☆17年10月 世界ジュニアで初優勝
 ☆同11月 講道館杯で初優勝
 ☆同12月 GS東京大会で初優勝。国際大会で一二三と初の兄妹同時V
 ☆18年9月 世界選手権をオール一本勝ちで初出場初優勝。一二三と兄妹同時Vは史上初の快挙
 ☆同11月 GS大阪大会を制し、19年世界選手権代表に内定
 ☆19年8月 準決勝でリオ五輪女王のケルメンディ(コソボ)を破るなど、世界選手権2連覇
 ☆同11月 GS大阪大会決勝でブシャール(フランス)に敗れ、デビュー以来の対外国人の連勝記録が48で途切れる
 ☆20年2月 GSデュッセルドルフ大会を制覇。全柔連強化委員会で東京五輪の代表内定

 ◆阿部 詩(あべ・うた)2000年(平12)7月14日生まれ、神戸市出身の19歳。5歳で柔道を始め、兵庫・夙川学院中で15年に全中優勝。夙川学院高2年だった17年2月のGPデュッセルドルフをワールドツアー最年少となる16歳で制覇。18、19年の世界選手権を連覇。得意技は内股、袖釣り込み腰。右組み。日体大2年。1メートル58。

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